瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

電通の残業協定「無効」 社員が一時違法状態に 東京地検


  広告大手、電通(本社・東京)の違法残業事件で、東京地検は7日、法定労
働時間を超えて社員を働かせるために労使が結ぶ「36(サブロク)協定」が労
働基準法の要件を満たさず、無効だったと発表した。1日8時間を超えて働く本
社の社員が一時期、違法残業の状態にあったことになる。電通のずさんな労務
管理が改めて浮き彫りになった。▼社会面=高橋さん母の談話

  東京地検によると、電通の本社では、残業時間の上限を1カ月あたり50時
間とする労使協定を結び、労働基準監督署に届け出ていた。労基法36条は
「事業場の過半数で組織する労働組合または過半数を代表する者」と協定を結
ぶ必要があると定める。しかし、地検が厚生労働省の押収した資料などを調べ
たところ、2015年10〜12月、本社の労組の加入者が従業員の半数を超えて
いなかった。地検はこの期間の36協定を「無効」と認定した。

  東京地検は5日、法人としての電通を労基法違反の罪で略式起訴し、本社
の部長だった3人を不起訴(起訴猶予)処分にした。3人については「協定が有
効であると誤信していた」と判断。地検は、3人が有効だと思っていた協定の上
限を超える時間に限り、部下4人に違法残業をさせていたと認定。協定が無効
で、本社の社員が違法残業状態にあったことは事件化しなかった。

  電通広報部は取材に対し、「正社員の労働組合には過半数が加入していた
が、非正社員が増えたことで全従業員に占める加入者が半数を切ってしまっ
た」と説明。昨年11月の厚労省による強制捜査後に指摘を受け、選出した従
業員の過半数代表者と36協定を結び直し、現在は違法状態を解消したとして
いる。

 ■大手企業では異例

  電通のように、労働法のルールを熟知しているはずの大手企業で36協定が
「無効」と指摘されるのは極めて異例だ。

  36協定には、法定労働時間の1日8時間を超えて残業させる場合に働かせ
過ぎを防ぐ役割がある。経営側は適正な手続きを経て協定を結ぶ責任があり、
労組は協定の内容を厳しくチェックする必要がある。内容に不備があれば、労
組が締結を拒否することもできる。

  労組に過半数の従業員が加入しているかどうかは、チェック項目のなかでは
基本中の基本。電通の労使がそれを見逃していた事実は、「漫然と前例踏襲
で協定を結んできた結果」(森岡孝二・関西大名誉教授)とみられても仕方がな
い。 
(久保田一道、小林孝也、千葉卓朗)

(朝日新聞 2017年7月8日)


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