瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

「心の病」の労災認定、過去最多 20代の増加目立つ


  過労などが原因で「心の病」を患い、労災認定された人が2016年度は498
人となり、2年ぶりに過去最多を更新した。職場のパワハラが原因で認定され
るケースの増加が目立つ。体の病気による労災認定は、政府の「働き方改革」
で残業時間の上限規制の適用を5年間猶予されることになった運送業が突出
して多く、規制の強化を求める声が出ている。

  厚生労働省が30日、16年度の「過労死等の労災補償状況」を公表した。労
災は各地の労働基準監督署が認定する。労働者の病気やけがが業務に起因
するかどうかを、労働時間や勤務形態、仕事中に起きた出来事などから総合的
に判断する。うつ病など「心の病」を発症して労災を請求した人は1586人。4
年連続で過去最多を更新した。

  労災認定されたのは498人。14年度(497人)を上回り、こちらも最多となっ
た。原因別にみると、職場でのパワハラを含む「嫌がらせ、いじめ、暴行」が74
件。生死に関わる病気やけが、極度の長時間労働といった「特別な出来事」(6
7件)や「仕事内容・仕事量の変化」(63件)などの原因を上回り、比較可能な1
1年度以降で初めて最多となった。

  年代別では、20代の増加が目立つ。30代〜50代が前年度より微減となる
中、20代は20人増えて107人となり、全体を押し上げた。

  労災認定された人のうち、自殺や自殺未遂をしたのは84人。広告大手、電
通の新入社員で15年末に過労自殺した高橋まつりさん(当時24)も含まれ
る。労災の請求件数や認定件数の増加について、厚労省の担当者は「(電通
事件で)精神障害が労災対象になることが周知されたことも要因の一つだ」とし
ている。

  過労死問題に詳しい森岡孝二・関西大名誉教授は、パワハラが原因の労災
が増えた背景について「人手不足なのに業務量が増え、働き手にかかる負荷
が高まる『高圧釜』状態の職場が多い。人間関係がギスギスし、パワハラが生
じやすくなっている」と分析。20代の若者が即戦力として期待される傾向が強
まり、職場で過度なプレッシャーにさらされているとも指摘し、「業務量を減らし
たり、親身に相談・指導したりする配慮が職場に求められている」と話す。

  体の病気による労災認定も増えた。くも膜下出血や心筋梗塞(こうそく)など
「脳・心臓疾患」で労災認定された人は前年度より9人多い260人。うち107人
が過労死した。職種別では「自動車運転従事者」が89人と、突出して多かっ
た。うち29人が過労死した。

  発症前2〜6カ月の時間外労働が「過労死ライン」とされる1カ月あたり80時
間を下回るケースでも14人が労災認定され、うち9人が過労死した。

  政府が3月にまとめた「働き方改革実行計画」は、残業時間の上限規制につ
いて、運送業への規制適用を5年間猶予し、その後の上限規制も他業種より緩
めるとした。過労死弁護団全国連絡会議幹事長の川人博弁護士は「例外規定
が極めて危険であることが改めて実証された。除外業種をつくらないことが重
要だ」とのコメントを出した。(村上晃一、牧内昇平)

■高橋まつりさんの母のコメント

 厚生労働省が30日に発表した労災認定件数には、一昨年末に過労自殺し
た電通の新入社員、高橋まつりさん(当時24)も含まれている。母の幸美さん
は発表を受け、コメントを出した。

                       ◇

  これほど多くの人が仕事が原因で命を落としたり、健康を損ねてしまったと
いう事実は本当に悲しいことです。大切な家族を亡くした悲しみは決して癒える
ことはありません。

  労災認定された人たちは原因がわかっています。

  労働現場での重大な事故の後ろには多くのヒヤリハットがあり、それを見過
ごすことなく改善策をとり、同じ様な事故を未然に防ぐことができるでしょう。同じ
ように、長時間労働という過重労働の中では、身体も精神も追い詰められ死の
危険があることもわかっています。この長時間労働という原因をなくすことで大
切な命や健康を守ることができます。

  これ以上、頑張って生きている人の夢、希望、人生、命を奪わないで欲しい
と、強く願います。

高橋幸美

(朝日新聞 2017年7月1日)


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