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          瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)  
            2015年に亡くなった女性会社員(当時50)について、山口労働基準監督署 が労災(過労死)と認定したことがわかった。女性の残業時間の平均は国の過 労死認定ライン未満だったが、死亡前の半年で4日しか休めなかったことなどを 考慮した異例の認定となった。政府は残業時間の上限規制を進めているが、 専門家は「休日労働規制に踏み込まない対策は不十分だ」と指摘している。 
                     「この年では仕事もないし…」休日も出勤、やつれた母は 
            山口県内の弁当販売会社で配送を担っていた斎藤友己(ともみ)さん=同県 防府市=は15年11月、自宅で急死し、死因は心臓疾患の疑いとされた。遺 族側代理人の松丸正弁護士(大阪弁護士会)によると、斎藤さんは07年から 同社に勤務。タイムカードをもとに計算した死亡直前1カ月の時間外労働(残 業)時間は70時間11分で、直前2〜6カ月のそれぞれの平均は月あたり約7 1〜77時間だった。 
            国の過労死認定基準(時間外労働が発症前1カ月で100時間か、2〜6カ月 の平均で月80時間)には達しないものの、遺族側は、発症前6カ月の間に4日 しか休めていなかったと主張。特に15年8月14日〜11月12日は連続91日 間も勤務したとして労災を申請した。山口労基署は今年2月17日、遺族側の 主張を認める形で、斎藤さんの死を「過労死」と認定した。 
            労働基準法36条では、会社が従業員に時間外労働をさせる場合や法定休 日(毎週1日)にも働かせる場合、事前に労働組合か労働者代表との間で協定 (36協定)を結ぶ必要がある。そこでは残業時間や休日労働は実質的に上限 なく設定でき、斎藤さんの会社での36協定にも法定休日労働の日数に限度は なかった。 
            厚生労働省の13年度調査によると、企業などの約半数が36協定を締結。う ち2割強で、1カ月(4週間)のうち法定休日の4日間とも働くことを可能にする内 容だった。 
            松丸弁護士は斎藤さんのケースについて「休めないことによる疲労の蓄積が 大きかったとみるべきだ」と指摘。「36協定さえあれば事実上、延々と働かせら れるのが現行制度。斎藤さんの死の教訓を社会で共有すべきだ」と訴える。 (阪本輝昭) 
          ■専門家「休日労働の規制を」 
            電通の新入社員・高橋まつりさん(当時24)の過労自殺を機に、「働き方」を めぐる論議が高まった。政府は関連法令の改正・整備に向け3月28日、残業 時間の罰則付き上限規制などを新たに盛り込んだ「働き方改革実行計画」を決 めた。 
            残業時間について、36協定の締結を前提に、繁忙期も含めた年間の上限を 「720時間(月平均60時間)」と設定。繁忙期は「1カ月100時間未満」「2〜6 カ月平均でいずれも月80時間以内」を上限とし、過労死ラインをぎりぎり超えな い水準にとどめた。 
            ただ、年間上限「720時間」に休日労働は含まれず、斎藤さんのような法定 休日をつぶす形の連続勤務に上限は設けられていない。休日労働抑制につい ては事業者の努力義務とする方向で検討が進んでいる。 
            森岡孝二・関西大名誉教授(企業社会論)は「休日労働の規制に手をつけな い『改革』では過労死を防げないことが証明された。国は議論の出発点に戻り、 実効性ある対策を検討すべきだ」と話している。 
          (朝日新聞 2017年5月5日) 
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