瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

教員悲鳴「休みがない」 中学の6割「過労死ライン」超


  教員の長時間勤務の悪化ぶりが、文部科学省の調査で明らかになった。28
日に公表された勤務実態調査では10年前から労働時間がさらに増え、小学校
教諭の約3割、中学校教諭の約6割が「過労死ライン」に達していた。文科省は
「看過できない事態」と言うものの、改善に向けた道筋は見えない。その間も、
現場からは悲鳴が上がる。

公立小中の教員、平均11時間超勤務 30〜40分増

  神奈川県内の小学校の男性教諭(36)の出勤は毎朝7時半ごろ。陸上クラ
ブの朝練習の指導に始まり、授業や職員会議、行事の準備、事務作業――。
息つく間もなく仕事が続き、帰りは午後9時ごろだ。忙しい時は午後11時にな
ることもある。「今の働き方を定年まで続けるのは厳しい。社会の変化に対応す
るために仕事が増えるのは仕方ないが、教員の数はそう増えておらず、負担が
重くなっている」とため息をつく。

  どんな仕事が増えたか。学力、安全対策などの調査への回答▽授業増加に
備えた研修▽トラブル対応のための会議――など様々だ。「かつて子どもや保
護者が自ら解決できていたトラブルに、学校が介入を求められている」と感じ
る。

  「脱ゆとり」を目指した2008年の学習指導要領改訂で授業時間は増加。最
近は、グループ活動や討論を取り入れた学習方法の導入も求められ、入念な
準備が必要だ。

  今回の調査では、公立小中学校の教諭の勤務時間が10年前と比べ1日あ
たり30〜40分増え、11時間以上働いている実態が明らかになった。労災認
定基準で使われる時間外労働の「過労死ライン」は1カ月100時間または2〜
6カ月の月平均80時間。教諭に当てはめると、小学校の17%と中学校の4
1%が100時間、小学校の34%と中学校の58%が80時間の基準以上だ。

  中学校では土日の部活動の指導時間が1日当たり130分で、10年前から
倍増した。「部活があって今月は土曜日と日曜日に休みがなかった」。神奈川
県の公立中学校でバレーボール部の顧問をする教諭の男性(36)は打ち明け
る。平日は2年生の担任と顧問の二役。土日は練習試合や公式戦があり、半
日か丸一日、働くことも多い。「教師になって13年目。こんな生活がずっと続い
ている」と話す。

  仕事の見直しを進める現場もある。静岡県富士市の富士見台小学校は4月
から水曜日の午後の授業を1コマ削った。その分、朝に15分の基礎学習の時
間が週に3〜4回あり、教員の勤務時間が単純に減るわけではない。それで
も、「教材研究や子どもの提出物をじっくり確認するまとまった時間を確保した
かった」と内田新吾校長は語る。

  校内の花壇や庭木、畑の手入れも約70人の住民ボランティアに手伝っても
らい、教員の負担軽減を図っている。内田校長は「最も大事なのは子どもと過
ごす時間を確保し、充実させること。学校行事も、前例踏襲を当たり前とせずに
見直していく」と話す。(前田育穂、土居新平)

■授業時間増える

  「看過できない深刻な事態が、客観的なエビデンス(証拠)として裏付けられ
た」

  松野博一文科相は調査結果を受けてこのように語り、長時間労働の改善策
を中央教育審議会で検討してもらう考えを述べた。

  文科省はこれまでも教職員定数の確保を求めてきたが、そのたびに財務省
や経済財政諮問会議から「科学的根拠」を要求されてきた。10年ぶりの調査に
踏み切ったのは、反論の材料を得る意味があった。

  しかし、この間にも学校現場の負担は強まっている。06年度の調査と比べ
て勤務時間が増えた大きな理由は、授業時間の増加。「学力向上」をうたって
文科省が進めた学習指導要領の改訂が直接影響した形だ。学校では発達障
害などのため、丁寧な対応が必要な子どもや、日本語指導が必要な子どもも増
えている。ある文科省幹部は勤務時間の増加について「予想以上のひどさだっ
た」と打ち明けた。

  疲弊する現場を手当てするため、文科省は@教職員の確保A仕事内容の見
直し――の両方を進めたい方針だ。調査では学校でのICT(情報通信技術)の
活用状況や教員のストレスについても尋ねており、今年度中に公表する。た
だ、今回得た「エビデンス」を元に財務当局を説得し、抜本的な改善が実現でき
るかは、まだ未知数だ。(根岸拓朗)



  〈勤務実態調査の手法〉 昨年10〜11月の連続する7日間の勤務状況につ
いて校長、副校長、教諭、講師らフルタイムで働く教員に調査票に記入してもら
う形式で実施。全国から抽出した公立小中各400校のうち、小学校は397校
の8951人、中学校は399校の1万687人が回答した。文部科学省による同
様の調査は40年ぶりの実施だった06年度以来、10年ぶり。

(朝日新聞 2017年4月29日)


トップへ
トップへ
戻る
戻る