瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

違法残業の社名公表を拡大 過労死防止へ緊急対策


  厚生労働省は26日、過労死防止の緊急対策をまとめた。違法な長時間労
働を社員にさせていた企業の社名を公表する対象を広げ、違法残業が相次い
で見つかった企業について、本社を対象に全社的な是正指導に乗り出すことな
どが柱。来月以降、順次運用を始める方針だ。

  同日開いた厚労省の「長時間労働削減推進本部」の会合で、「『過労死等ゼ
ロ』緊急対策」として打ち出した。広告大手の電通で、新入社員の高橋まつりさ
ん(当時24)が過労自殺し、9月末に労災認定されたことを受けてまとめた。

  企業名の公表については、月80時間を超える違法な時間外労働によって社
員が過労死や過労自殺(未遂含む)した大企業について、別の事業場でも@同
様の過労死・過労自殺が起きて労災認定されたA月100時間超の違法残業も
見つかった――場合などに公表できるよう基準を見直す。

  厚労省は従来、労働基準法などに違反した企業について、書類送検された
段階で企業名を公表してきた。昨年5月以降は、大企業を対象に「月100時間
超の違法残業が1年間に3事業場で見つかった場合」は送検前の段階でも公
表するよう基準を見直していたが、この基準に従って社名が公表された企業は
わずか1件にとどまる。

  厚労省によると、2015年度に月80時間以上の残業をして過労死・過労自
殺と認定された人は151人。月100時間超の違法な時間外労働による是正勧
告は約500件あった。厚労省の担当者は「新基準によって公表対象の企業は
ある程度は増える」と話す。

  過労死・過労自殺がない場合の公表基準も見直す。これまで月100時間超
にしていた公表の基準を月80時間超に引き下げ、1年間に二つの事業場で違
反が見つかるなどした企業に対し、まず労働基準監督署が本社の労務担当幹
部を呼び出して指導。その後一定期間を置いて本支社に抜き打ちで立ち入り調
査に入り、改善状況を確認する。そこで違法な長時間労働が見つかれば、企業
名を公表する。

  メンタルヘルス対策やパワハラの防止策も強化する。複数の社員が精神障
害で労災認定を受けた企業に対し、パワハラ防止を含めて個別指導を徹底す
る。なかでも過労自殺が起きた企業には改善計画を作らせ、労基署が1年間継
続的にチェックする仕組みを新たに導入する。月100時間超の残業や休日労
働をした社員の情報を産業医に提供するよう企業に義務づけるため省令の改
正もする。

■過労死防止緊急対策の主な内容

長時間労働の防止策

●労働時間の適正把握を徹底するため、実労働時間と自己申告が違う場合、
企業に実態調査をさせる

●違法残業などによる是正勧告を年間に複数の事業場で受けた企業に対し、
本社の幹部を直接指導

●違法残業があった企業の社名公表基準を見直し。公表基準となる違法残業
の時間を月80時間超に引き下げ、過労死認定を要件に追加

●残業時間の上限を労使協定(36〈サブロク〉協定)で定めていない企業への
指導を徹底

メンタルヘルス対策・パワハラ防止策

●精神障害の労災認定が3年間に複数あった企業の本社に特別指導。過労
自殺を含む場合は改善計画を策定させる

●月100時間超の残業をした社員の情報を産業医に提供することを企業に義
務づけ

その他の取り組み

●経団連など経済団体に対し、違法残業の防止や短納期発注の是正などを緊
急要請

■パワハラ防止策も強化

  厚生労働省が26日に打ち出した過労死防止に向けた緊急対策は、広告大
手、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が過労自殺し、9月末に
労災が認められたことをきっかけに、緊急にまとめられた。上司によるパワハラ
が過労自殺の一因になったと遺族側などから指摘されていることも踏まえ、パ
ワハラ防止策も盛り込んだ。

  現在の労働関係法令にはパワハラを規制する条文はなく、労働局がパワハ
ラについて企業に是正勧告をすることはできない。厚労省は昨年5月に企業向
けの「パワハラ対策導入マニュアル」を公表して周知してきたが、パワハラを防
ぐ効果が出ていたとは言い難い。緊急対策では、精神障害による労災認定が3
年間で2件以上あった企業に対して、来年度から「パワハラの疑いがある」との
前提で指導に乗り出すことが盛り込まれた。

  電通の本支社や主要子会社が相次いで労働基準法違反で是正勧告を受け
ていたのに、高橋さんの自殺を防げなかったことを受け、大企業の本社への指
導強化にも乗り出す。労働基準監督署の監督指導はこれまで事業場単位で行
われてきたが、違法な長時間労働や精神障害の労災認定が複数の事業場で
あった大企業には、本社への指導が欠かせないと判断した。

  企業がつくる経済団体への働きかけも強める。残業時間の上限を労使で定
める協定(36協定)を結んでいない企業への指導や、長時間労働の温床とさ
れる「短納期」の取引慣行の見直しなどへの協力を要請する。

(朝日新聞 2016年12月27日)


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