瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

外国人技能実習生、異例の過労死認定 残業122時間半


  建設現場や工場などで働く外国人技能実習生が増え続ける中、1人のフィリ
ピン人男性の死が長時間労働による過労死と認定された。厚生労働省による
と、統計を始めた2011年度以降、昨年度まで認定はなく異例のことだ。技能
実習生の労働災害は年々増加。国会では待遇を改善するための法案が審議さ
れている。

  ジョーイ・トクナンさんは、ルソン島北部の山岳地帯で生活する少数民族の出
身。妻レミーさん(28)と、娘グワイネットちゃん(5)ら家族を養うために11年に
来日した。岐阜県の鋳造会社で、鉄を切断したり、金属を流し込む型に薬品を
塗ったりする作業を担当していた。14年4月、従業員寮で心疾患のため、27
歳で亡くなった。帰国まで残り3カ月のことだった。

  最低賃金はもらっていたが、稼いだほとんどを毎月、フィリピンに送金。離れ
て暮らす娘とテレビ電話で話すことを楽しみにしていた。「リサイクルショップに
娘のお土産を買いにいくんだ」。前日、そう同僚に話していたという。

  岐阜労働基準監督署によると、1カ月に78時間半〜122時間半の時間外
労働をしていたとされる。労基署は過労死の可能性が高いと判断。昨年、遺族
に労災申請手続きの書類を送った。結婚の証明などを添えてレミーさんが申請
し、今年8月に労災認定された。一時金として300万円、毎年約200万円の遺
族年金が支給されるという。

  レミーさんは娘を育てながら、義理の母と暮らす。ほぼ自給自足の生活で、
畑の野菜を売って手元に残る現金は日本円で年6万5千円ほどだという。「夫
が日本で働いていた証しのようなもので、感謝している。年金で自分たちの家を
建てることを考えている」

  ジョーイさんが日本へ行った後に生まれ、父に会ったことがない娘から「いつ
お父さんは帰ってくるの」と尋ねられることがある。レミーさんは「娘がもう少し成
長し、理解できるようになったら夫のことを説明するつもり」と話した。

■増える違法な時間外労働

  技能実習制度は途上国に技術を伝える国際貢献が目的だが、人手不足の
現場では低賃金の労働力となっている。安倍政権の受け入れ拡大の方針を受
けて急増しており、法務省によると、今年6月末には過去最多の約21万人に
のぼっている。

  厚生労働省のまとめでは、技能実習生を受け入れている事業所のうち、昨年
に違法な時間外労働などの法令違反があったのは、3695カ所。一昨年より7
18カ所増え、過去最多になった。また、国際研修協力機構(JITCO)のまとめ
では14年度の労災事故の死傷者は1241人で、こちらも過去最多に。作業中
の事故で5人が死亡したほか、自殺が6人、脳や心臓の疾患による死亡者も6
人いた。

  こうした状況を受け、労基署は技能実習生が働く事業所を重点的に監督指
導している。今回の過労死認定について、技能実習生の支援に取り組む指宿
昭一弁護士は「海外にいる遺族には情報がなく、労基署が申請を働きかけたこ
とは高く評価できる」と話す。

  厚労省と法務省は昨年、技能実習生の保護を強化する法案を国会に提出。
実習計画をチェックする組織を新設することなどを盛り込み、今国会も審議が続
く。

  指宿弁護士は「長時間労働が横行しており、他にも過労死した人がいる可能
性がある。組織をつくって管理を強めることはいいが、その実効性を確認する前
に受け入れを拡大するべきではない」と話す。(小林孝也)

(朝日新聞 2016年10月15日)


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