瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

厚生年金、違法な未加入一掃へ 79万事業所を調査


  厚生年金に入る資格があるのに年金額の少ない国民年金に入っている人が
約200万人と推計され、政府が対策に乗り出す。厚生労働省は13日、保険料
負担を逃れるため、違法に厚生年金に入っていない可能性がある約79万事業
所を対象に緊急調査すると表明。加入対象と判明すれば重点的に加入を指導
し、「低年金」の予備軍を減らしたい考えだ。

  この問題は、民主党の長妻昭氏が13日の衆院予算委員会で取りあげた。
安倍晋三首相は「200万人の件は確実にやるように(塩崎恭久)厚労相に指示
する」と答弁。厚生年金の未加入対策に本腰を入れる考えを示した。

  厚生年金は会社の正社員のほか、労働時間や日数が正社員の4分の3以
上のパートでも適用される。平均的な収入で40年間会社勤めすると厚生年金
を月約15万6500円受け取れるが、自営業者や非正規社員らが入る国民年
金は保険料を40年間満額納めて月約6万5千円。将来の年金額が本来より少
なくなる人が続出する可能性がある。

  保険料は国民年金なら月1万5590円で、厚生年金なら平均的な収入の人
で月約3万9千円を払い、雇い主も同額を負担する。この負担を逃れるため、厚
生年金の適用を年金事務所に届けない事業所がある。

  日本年金機構は加入逃れの可能性がある約79万事業所に対し、早急に調
査票を送る。従業員数や労働時間などを尋ね、回答内容から厚生年金の加入
対象の可能性が高ければ、訪問して加入指導をする。必要なら立ち入り検査も
行い、検査を拒否すると罰則もある。

  厚労省は年金事務所で加入に必要な手続きをしていない事業所の所在地を
登記簿などで割り出してきたが、休眠会社も多い。そこで今年度からは従業員
に給与を支払っている事業所の名称や所在地情報の提供を国税庁から受けて
おり、今後、さらに連携を強める。

■「払うとつぶれる」

  厚生年金への「加入逃れ」にメスが入ることになった。事業所の大半は中小・
零細企業とみられる。

  「保険料を払うと会社がつぶれる」。北海道滝川市の社会保険労務士、高松
裕明さんは、経営者に厚生年金への加入義務を説明しても、こう返されること
がよくある。実態は社長と事務担当の妻だけの「個人商店」なのに、契約を取り
やすくするため加入が必要な法人の形態にしている建設業も多いという。

  東京都内の市役所で年金相談に応じる社労士の倉本貴行さんは、就職する
際に厚生年金への加入を求めたのに「余裕がないのでしばらく辛抱してほし
い」と言われた、という話を昨年聞いた。結局、その人は退職まで自分で国民
年金の保険料を払い続けたという。

  一方、給料から保険料を天引きされ、手取りを減らされることを嫌がる従業員
もいるとされる。

  厚労省の推計では、未加入とみられる約200万人のうち20〜30代が約12
3万人で6割を占める。20代が71万人と最多で、30代が52万人、40代が44
万人、50代が35万人と、若い年代ほど未加入の対象が多くなる傾向にある。

  厚生年金に入る資格があるのに未加入と気づいた場合、勤務先を相手に民
事訴訟を起こすことも考えられる。ただ、若いと年金を受け取るのに必要な加入
期間(25年)を満たさず、損害額を確定しづらい課題もある。

  厚生年金保険料の後払いが認められるのは過去2年分で、対応が遅れると
本来もらえる年金を取り戻せなくなる。この問題に取り組む木村康之弁護士は
「働き始めたら自分が厚生年金に加入しているかすぐ確認し、問題があれば年
金事務所に相談して欲しい」と助言する。(井上充昌、久永隆一)

(朝日新聞 2016年1月14日)


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