瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

被災3県労災6割増、震災前の10年と比べ…建設作業員不



  復旧・復興工事が本格化する東日本大震災の被災3県で、建設工事関連の
労災事故が2013年、震災前の10年に比べて62%増加していたことが、3県
の労働局のまとめでわかった。

  全国的にみても増加ぶりが際立ち、厚生労働省は、背景に建設作業員の不
足に伴う作業の負担増や、経験の浅い作業員の増加があるとみて、現場指導
の強化などを進めている。

全国平均は7%増

  各労働局によると、岩手、宮城、福島の被災3県での建設工事で死傷者が
出た労災事故の合計は、10年が762件だったのに対し、震災があった11年
は1084件(42%増)、翌12年は1264件(66%増)と推移し、13年も1231
件で62%増。県別では、13年で岩手54%、宮城72%、福島は57%、それぞ
れ増加した。

  一方、全国的にみると、労災件数は10年(1万6143件)に比べて、11年が
4%、12年6%、13年7%と若干の増加にとどまる。東京都はほぼ横ばいだ
が、大阪府では13年に6%減少し、被災3県の増加ぶりは全国的にも突出し
ている。

  増加の要因には、11年以降に3県が発注した公共工事の入札件数が、10
年に比べて10〜20%増加するなど工事件数自体が急増していることがある。
加えて、被災地で復旧・復興工事が進展していることで建設需要が高まり、建
設技術者や作業員の不足が深刻化。厚労省の担当者は「人手不足で作業員1
人あたりの負担が重くなっていることや、作業に習熟していない作業員が増え
ていることが労災を招いている」と指摘する。

  また厚労省のまとめでは、今年上半期の全国の労災での死者数は計437
人で、前年同期に比べて19・4%も増加。作業員不足の影響が拡大し、全国
的に工事現場の作業環境が悪化している恐れもあるとみられ、建設業労働災
害防止協会(東京)の吉川敏彦・震災復旧復興工事労災防止対策本部長は
「作業員への安全教育を行うよう、公共工事を発注する自治体などから業者に
指示することも有効だ」と話している。

安全確認厚労省が巡回指導

  労災急増を受け、厚生労働省は、復旧・復興工事の現場を対象に巡回指導
を行うなどの対策に乗り出した。

 「全員、安全帯を着用していますか」

  護岸の復旧工事が進む宮城県名取市・閖上(ゆりあげ)漁港。建設業労働災
害防止協会の巡回指導員菅野吉郎さん(65)がチェックシートを手に、工事に
あたる作業員に声をかけた。関西から来た作業員には、「東北の言葉でも指示
はちゃんと聞き取れますか」と確かめた。

  工事を担当する熱海建設(仙台市)の横田協二さん(50)は「復旧工事は工
事規模も大きく、つい安全確認の手順を省略したくなる」と言い、気を引き締め
た。

  同協会は厚労省の委託を受け、被災3県で工事現場の巡回指導などにあた
る。かつて建設会社で安全管理を担当していた菅野さんは「作業員不足のため
1人あたりの仕事量が増え、安全確認がおろそかになっている恐れがある。作
業に慣れていない作業員の増加も大きい」と話す。

  国土交通省の建設労働需給調査結果によると、全国の建設現場で必要とさ
れる技能労働者(8職種)の人数は、2008〜10年は0・6〜1・5%の過剰状
態だったが、震災後は逆に年平均0・8〜1・9%程度の不足が続く。同協会に
よると、こうした状況を反映し、経験3か月の作業員が脚立から転落して骨折し
たり、経験1か月の作業員が屋根を踏み抜いて転落したりといった事故が頻
発。

  同協会は労働者への安全講習も行っているが、講習のため作業を休ませる
のをいやがる業者も多いという。

(読売新聞 2014年11月07日)


トップへ
トップへ
戻る
戻る