瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)
大阪府南部・泉南地域のアスベスト(石綿)加工工場の元労働者らが起こし
た集団訴訟の上告審判決で、最高裁は9日、石綿による健康被害について国 の責任を初めて認めた。第一小法廷(白木勇裁判長)は「国が速やかに規制を しなかったのは著しく合理性を欠き違法だ」と判断した。
裁判官5人全員一致の意見。原告の元労働者や遺族計89人のうち、82人
の救済を国に命じた。
判決はまず、過去の判例を踏まえ、国の規制が合法か否かを判断する基準
として「規制は労働者の生命、身体への危害を防ぎ、健康を確保するため、で きる限り速やかに適時・適切に行使されるべきだ」とした。そのうえで、国が行 ってきた規制を検討。国は1971年、工場内の粉じんを取り除く排気装置の設 置を義務づけたが、小法廷は「58年には石綿の健康被害は相当深刻だと明ら かになっていた。速やかに罰則をもって排気装置の設置を義務づけるべきだっ たのに、71年まで行使しなかった」と判断した。
元労働者側は、国が88年までに定めた工場内の粉じん濃度の基準値も不
十分▽95年の防じんマスクの着用義務化が遅すぎた、と主張したが、小法廷 は「国の規制が著しく合理性を欠くとまでは言えない」とした。
訴訟は「1陣」(原告34人)と「2陣」(同55人)に分かれて提訴。1陣の二審・
大阪高裁判決は国の責任を否定したが、2陣の二審は国の責任を認めた。
最高裁は、2陣の二審判決について、58〜95年としていた国の責任期間を
58〜71年に狭め、就労期間が遅かった1人を除く計54人に計約3億3千万円 を支払うよう命じた。国の責任割合は「2分の1」を維持した。1陣の二審判決は 破棄し、就労期間が遅かった6人をのぞく28人の勝訴とし、賠償額を算出する ために高裁に差し戻した。(西山貴章)
(朝日新聞 2014年10月10日)
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