瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)
厚生労働省は今月、職場での性的嫌がらせ(セクシュアル・ハラスメント)に
よってうつ病などの心の病が起きた場合、労働災害に認定しうる、との見解をま とめ、全国の労働局に通知した。旧労働省は99年、ストレスによる労災を認定 する際の「判断指針」にセクハラ被害も盛り込んだが、被害者が労働局の一線 機関である労働基準監督署に申請しても、「セクハラは業務上の行為ではな い」として労災が認められないケースが相次ぎ、批判が強まっていた。
厚労省は、労働行政の中で見解が統一されていなかったとしている。今回の
措置で、セクハラに悩む労働者の救済の道が広がることになる。
1日付で出された通知は、(1)セクハラは労災認定の時、業務に関係する出
来事として評価対象になる(2)被害が極端に大きいセクハラでなくても、起きた 後の職場の対応が適切でない場合は認定されることがある、などとしている。
厚労省はこの数年で、セクハラで心の病などを起こして仕事ができなくなった
とする労災申請を7件把握しているが、認定されたのは1件だけ。認定しなかっ た労基署の見解は、セクハラは上司などの個人的な資質の問題で、業務が原 因の災害とはいえない、というのがほとんどだ。
女性団体によると、認定されなかった1件では、女性社員が上司に何度も体
を触られたり誘われたりして不眠や食欲不振に陥り、02年に退社に追い込ま れた。03年、労基署に労災を申請したが「障害はセクハラのためと思われる が、セクハラ行為は業務上の行為ではない」などとして認められなかったとい う。
今年7月の衆院厚生労働委では、藤田一枝議員(民主)が「セクハラ被害に
伴う労災申請の増加が目立つ」として事実関係の把握を求め、尾辻厚労相(当 時)が調査を約束していた。
カウンセラーや女性ユニオンのメンバーがつくる「セクシュアル・ハラスメントを
なくそう全国ネットワーク」(本部・東京)が今年6月に行った電話相談では、17 3件の相談のうち6割が「体に何らかの影響が出ている」とした。27%が医療 機関で診察を受け、21%が退職に追い込まれていた。労災認定はゼロだっ た。
(朝日新聞 2005年12月13日)
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