WEB詩集『昭和の森の子どもたち』



 





「宿命のカタパルト vol.8」

貴方は何度も私を試そうとしました
もう会わないなどと残酷な言葉を吐いたり
別れようと言ったり 離さないと言ったり
今度は過去の恋人とやり直すと言い出したり

「ずっと愛し続けるつもりでいたけど いいわ
貴方の未来のためさようならしましょう」

すると唐突に貴方はその場で失神しました
抱きしめ続ける以外何ができたというのでしょう



「宿命のカタパルト vol.9」

貴方は結局、昔の恋人に会いに行きました
そこで何が話されたのでしょう
昔彼女と一緒に暮らした街で
新しい発見はありましたか
昔のように胸はときめきましたか
戻ってこなくてもよかったのに
私のことなんか忘れてくれてよかったのに
そしたら私も自由に未来へ歩き始められたのに



「宿命のカタパルト vol.10」

本当は知っていたの ここへ帰ってくること
貴方があの街に捜しに行ったのは
無くした矜持、一度棄てた夢、喪われた時間

でも 本当は最初から失ってなどいなかった
全部そばにあったのよ 
あなたは自分の目を塞いでいただけ

あの人は、貴方などなくても輝いていたでしょう
自分で充足し生きる道を見つけていたでしょう



「宿命のカタパルト vol.11」

いいわ抱きしめてあげる
こうなったら存分に 息が止まるくらいに
光射す朝の海を
水平線まで歩いていきましょう
遠い渚の潮だまりで海水に半分浸かって
めしいた肺魚のようにこの泥土の中で
ひっそり二人暮らしましょうか
それとも・・・



「宿命のカタパルト vol.12」

唇をかさね初めて1時間
身体の位置を変えてまた1時間
ひとつになって揺れ初めて1時間
私が抱え上げられながら揺れてもう1時間
少しふつうじゃないと思いながら
この耽溺から逃れられない
何もかも互いに忘れてしまうの
生きていくことを取り巻く法則さえ



「宿命のカタパルト vol.13」

睡っている貴方は
私の手を握りしめたまま
       
指をほどこうとしたらそのたびそれ以上に
強く強く握り返してくるので
私は寝返りも打てずにあなたの額眺めてる

ミルクのような吐息と
煙草の匂いの混じった体臭と
寝言で小さく私の名を囁いた 涙が滲んだ



「宿命のカタパルト vol.14」

貴方が私を閉じこめたの?
私が貴方を閉じこめたの?
白い密室で愛し合っているうちに
つゆが明け夏が来たと貴方が口にした瞬間
西岸都市の影法師は灼熱の彼方に氷解して
気恥ずかしいくらいに純白の朝が生まれた

蝉たちの束の間の夏はカタパルト

愛を精一杯にうたうために飛び立っていく





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