「氷点下の舞踏」
さざめく海に降る雪よりも
しんしん街に降る雪は
澄んだ水に還っていく力を失くしかけていて
だから私が奪ってあげる
冷え切った顔(かんばせ)にふれるときみたいに
そっとくちびるで
花鮮芳(はなすおう)色の湿度の上で
六角華の結晶が きりりと風のダンスを謳う
さまよう海に降る雪よりも
しのぶる街に降る雪は
過ぎ去った記憶のように無音のやさしさに満ち
だから私が破ってあげる
その頑ななまでに痛みを抱えた沈黙を
そっとくちづけで
花酢漿草(はなかたばみ)色の涙にふれて
六角華の結晶が ふわりと春の温度に溶ける