WEB詩集『昭和の森の子どもたち』






  「氷点下の舞踏」



 さざめく海に降る雪よりも

 しんしん街に降る雪は

 澄んだ水に還っていく力を失くしかけていて


   だから私が奪ってあげる

   冷え切った顔(かんばせ)にふれるときみたいに

   そっとくちびるで


 花鮮芳(はなすおう)色の湿度の上で

 六角華の結晶が きりりと風のダンスを謳う




 さまよう海に降る雪よりも

 しのぶる街に降る雪は

 過ぎ去った記憶のように無音のやさしさに満ち


   だから私が破ってあげる

   その頑ななまでに痛みを抱えた沈黙を

   そっとくちづけで


 花酢漿草(はなかたばみ)色の涙にふれて

 六角華の結晶が ふわりと春の温度に溶ける










戻る
森の扉へ戻る
メニューに戻


音源