WEB詩集『昭和の森の子どもたち』







 「月のもたらす魔性と聖性との関係」




   



 目を閉じるのが怖い
 特に綺麗な月の夜

 ここのところ抱かれるたび襲ってくる幻視に
 惑わされている

                  

 鉄条網で囲まれた緑草地で
 砂塵の街の鮮やかなるバザールの路上で
 御身と絡み合う姿が 
 閉じた目蓋の奥に飛来する

 だから目をしっかり開けて
 行く先を見届けようとするのだけれど
 最後は何度も何度も名前を呼びながら

 気がついたらいつも白い遠浅の海

 輪廻の夢野見しその果てに
 辿り着いた円柱列石

 紫の夜が凪いで

 さんざめく鎮守の森の溜息
 ぬばたまの夜のガラスの博物館

 うそはほんとう ほんとうはうそ

 あやかしの光放てるその石は
 悲母観音が産み落とした月の雫





 結局の処
 月は女に母性を授けようとしているのか
 それとも魔性を呼び起こそうとしているのか

 でもでも、
 答えを知ろうと
 ずっと夜通し見上げたりしていては余計にいけない
 ほんとうに心のすべてを持って行かれてしまうから














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