WEB詩集『昭和の森の子どもたち』






 「私の瞳は鳶色のガラス玉ではない」





 海からの風はどっちに向かうのだろうと

 抽象の時空に格納してある風切羽にそっと問いかける

 木立を抜け吹き降ろす風は海霧に出会えるのだろうかと

 日がな一日眺めているガラス窓越しの空に問う



 あの山道で転落して

 死に損なってサイボーグの足になり

 癒えていく時間の中で私は違う座標を歩き始めた

 私は今確かに

 私を支える見えないもう一翼の「つばさ」を知覚している

 生死の峠を越えたそのときですら

 その白い暖かな片翼は

 そっと私の魂の隣に寄り添っていた





 つぎに目指す地点を見据えて

 ゆるやかに歩き始めたこの夜

 ロボットのようなぎこちない歩行訓練を

 天空の蒼月が見守っている







 もう私の瞳はただ透明なだけの鳶色のガラス玉ではない







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