WEB詩集『昭和の森の子どもたち』







  「蒼い誕生日 故郷の海にて再生す」



 人は生まれてきたその瞬間の赤ん坊としての記憶を

 深い心理の水底に抱え続けているのだそうだ

 息が吸えなくて苦しかったこと

 それまで抱きしめてくれていた

 暖かくて居心地のいい暗い海から突然のように放り出される孤独



 誕生日が来るたびにいつも私を悩ませた憂鬱は

 この誰もが持つというトラウマのせいだったのだろうか



 だけどど今年はもう怖くない

 生まれ落ちたあの故郷の海が何処だか知ったのだから



 たとえそこがコンビナートの海だろうと

 海亀が孵卵するには不適当なテトラポットだろうと

 私は此処で生きる

 私は再生する そして故郷も再生していく

 寄せては返す波のように

 移ろう時の大河の流れのように


 蒼い誕生日 故郷の海にて再生する

 もう私には迷うことなどない

















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