「ゼリー・ビーンズの夜」
私の子どもの顔をまだ私は知らない
私の母親の顔さえまだ私は知らない
まだ私はこの世界に生まれ落ちる場所さえ知らずに
ふわふわした真綿のようにただよう雲のうえで
ゼリー・ビーンズのようなカプセルの中で
ちぢこまった手足を震わせながら
これからたどり着く場所を眺めている
もうすぐ逢えるのだと思う
私の愛するひとたちに
でも私の目に今見えるのは
同じようにゼリー・ビーンズのようなカプセルに入った
同じような子どもたち
少しずつ髪の色が違い瞳の色や肌の色が違うけれど
そして色とりどりのゼリー・ビーンズは淡い光を放ち
静かに飛行物体に積み込まれていくものもあれば
気流の変化でうっかり雲の隙間からこぼれ落ちてしまい
ただの流れ星になってしまうものもある
太陽は時折遠く輝き見えなくなり
赤や青や白のまばゆい星たちが点滅しては姿を消す
これから私がどのくらい
ゼリー・ビーンズの夜をくぐり抜けなくてはならないのかは
私自身には計り知れないが
遠い地上で繰り返される
無為な破壊の噂だけはなぜか知っている
何ができるだろうか 何ができるだろうか
それがわかったときに初めて地上に降り立ちたい
いまはただ混沌の祈りを生きるゼリー・ビーンズの夜
ただひたすら待ち続ける時間の中で涙の意味だけは知ったよ
形にならない愛だけを抱えて漂泊するゼリー・ビーンズの夜が
今日もまた私を包んで青い地球の上を通り過ぎていく