WEB詩集『昭和の森の子どもたち』







   「電線心中」(中村トクシ・朋田菜花 コラボ作品)





朱い鳥居の脚の下 しっぽを振ってた小さな仔犬

目も見えぬうちから 闇を知り 

親を慕い 親を恋い 鎮守の森へと続く道

カエルが鳴くから かまいたち カラスが鳴くから 神隠し

さよなら三角 またきて疾風 子供心に見栄を張り







送電線に結んで飛ばそう

転校していったまま逢えないあの子に

言えなかったあの日の言葉

勇気をくれたあの小さなてのひら 握りしめてた赤い折鶴



ため池 ささぶね すりきず 泣いた

夏みかんが揺れてる縁側 ゆうやけ雲が流れてた

何であんなに悲しかったんだろ

何であんなに暖かかったんだろう



白壁に ぽっかり あいた 穴ぼこを覗き込んで

みんなに隠れて 小さく嗚咽

カエルが鳴くから かまいたち カラスが鳴くから 神隠し

さよなら三角 またきて心中 子供心に好きでした



ビワの木が描かれた絵葉書の 虫の這ったような宛名の字

魔法瓶の傍 はしたてが かたんと 転げて

顔を見合わせくすくすと 匂うような笑顔で笑う

綺麗な娘になりました 綺麗な瞳になりました







送電線は茜空(あかね)の波で

転校していったまま逢えないあの子に

ありがとう ありがとう とお辞儀をしているよぅ









【中村トクシ】
僕の胸の裡に生い茂る濃緑の鎮守の森。半ズボンの僕がこっちを見ている。ねぇ、どうしてる?造成されて赤土が目立つ森の形跡にひとり。送電線を五線譜に見立ててわらべうたをなぞってみよう。響くはずだ、まだ大丈夫だ。小学校の方角に夕陽が沈んでいく。

【朋田菜花】
夕日の空を切り取るようにどこまでも続いていく電架線。私はいつもここにいる。あなたはどこにいる? あのときは気付かなかった、あなたがくれたたくさんの勇気のおかげで、今、私はここにいます。





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