WEB詩集『昭和の森の子どもたち』





    


   「昭和の子どもたち」  






造船所の廃油粕にまみれた猫の死体

明けガラスの啼く声 かあかあと枯葉めいて 

遠い汽笛の音 ぽうぽうと泡末の夢の果て


隣家の喘息の少女

コンビナアトと口ずさむときの

老人の誇りかな声

今日も昇る黒煙 町はずれのトタン屋根


それでも昭和の子どもたちは

歌い続けたのだ

口笛が上手に吹けなくても

悔やむ必要などない





ハンメルンまで行こう 今すぐ行こう

永訣の朝に飲んだミルクを

口移しでもういちど君に

そしてもういちど君から僕へと

ナイフを研いだ 青い甲虫の切っ先が

心臓を狙っているから ここで先に挨拶をするよ


それでも昭和の子どもたちは

叫び続けたのだ

ガット・ギターが上手に弾けなくても

「水晶の栓」は時計仕掛けで動き出す






ハンメルンまで行こう 今すぐ行こう

今生の夜に抱き合った躰を

永遠の傷口に塗り込めて

そしてもういちど君から僕へと

銀弾を装填した 青い小銃の銃口が

永遠を撃ち落としたときに 僕は初めて愛を語ろう







☆画詩バージョン






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