WEB詩集『昭和の森の子どもたち』







     「ビンロウジュとグラマンの沢庵色の夕日
          またはあの夏のレクイエム」

               (中村トクシ・朋田菜花 コラボ作品)





過ち去り逝きて神軍

遠き野辺に埋葬されし未来を掘り当て

敗残の冷や飯に沢庵の尻尾を

謹厳実直な吾郎と太郎兵衛のタロイモ畑で

大陸棚に突き刺さっているグラマンを見る

その上をかすめ飛来するイトマキエイのえら呼吸を真似て

ボクは麦刈りの唄をうたう

積乱雲が覆い被さり そしてスコール

椰子の葉陰に逃げ込んだら

ビンロウジュの小さな芽がボクのお尻をくすぐった



              



水苔だらけの鉄兜 極楽鳥の棲む梢

金属同士の軋みは 木霊(こだま)をうち鳴らし

波打ち際で 亡国の旗が ふたたび風に翻弄されている



              



 流れ着きたかったのは褐色に湿った膝


 オレンジ色の残照の温度をガスマスクに詰めて
 
 家路への道取りを

 息も継がずに歩いたのだが

 ドアの開けかたを忘れていたことに気付いた

 鍵はもうあのとき失くしていたのだ



             



生き急ぎたかったのは あのね


帰りたかっただけなんだよ 破裂して

肉塊は島の土になってしまったけれども

一枚の通知状と共に 紫の大柄の蝶々と 翔んでさぁ




             







コメント

【朋田菜花】
中村トクシさんと「山口県人詩人会」を立ち上げる打ち合わせ中に、ふと一緒に詩を書いてみようということになりました。
沖縄には、この1月訪問し摩文仁の丘には献花を捧げて参りました。今回は詩で「あの夏」を悼むという試みでしたが、こんな「祈り」もあってもいいのではないかと思っています。

【中村トクシ】
女性とコラボをしたのは初体験でありました。同性とはまた違った緊張感でドキドキもんで御座いました。或る南の島でのほんの一瞬を時空を越えて捕まえたくなったのです。ちょうど沖縄返還30周年だったよね。秘めたるメッセージを掬っていただけたらと思います。



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