「清流」

¨・¨∵:*:∵¨・.*.・¨∵:*:∵¨・¨

***

 


それはしずかに流れていく

それはしとどに濡らしていく

時間よりもこきざみに

大気よりもおおらかに



真冬でも凍ることのない流れ

無限の命のようにただこんこんと



そして湧きいでた泉はふたたび地中へと消えていく

この不可思議な空間には森の霊気が宿る



わたしはまだ迷いながら5月の尾瀬沼のこの地に立つ

涙よりも熱く胸中を濡らす流れ

過去の自分との訣別



勇気などない、元気などない、強気などどこにもない

ただ逃げだしたくてふるふる震えている自分がいる



清流は静かにすべてを映す

空も雲も静かに鏡のように

青い氷が清流の中に眠るようにいくつも沈んでいるのだが

それがまるで膝を抱えて眠る妖精の寝顔に見えたりして

一瞬ドキリとする

いや、ここで時を忘れて眠ってしまいたいのは私自身なのだ



流水の透明は魂をすかして

ほら運命をうらなう行く手に

蛍色のちいさな閃光

きっと、

もう少しでこの川にも

魚が戻ってくる温度を取り返すのだから

私の心に刺さった氷の刃も

時が来れば溶け去るのだと信じてみたくて

陽光が左胸に口づけしながら流れ去っていく風の中に

身を委ねる


それでも断ち切れない時の女神の足音が

ロープを携えて真後ろに立つのを感じる



真冬でも凍ることのない流れ

無限の命のようにただこんこんと

嘘をつかずに生きてきたはずなのにこんなにもたくさんの嘘を

かかえてでも守りたいものは

この無限の流れのようにあふれくる想い

この水が潤す大地もあるのだと

この水が救う命もあるのだと

信じられる今、やはり飛翔し続けるしかない

折れた翼で

声を失くしたさえずりを奏でながら



それはしずかに流れていく

それはしとどに濡らしていく

信念よりも深く強く

渇望よりも激しく熱く



真冬でも凍ることのない流れ

無限の命のようにただこんこんと‥‥




***

¨・¨∵:*:∵¨・.*.・¨∵:*:∵¨・¨