「森の小屋で」
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その森の小屋で
つくられる酒はおもに秋に仕込まれる
醸造酒・果実酒・にごり酒
春に、はなびらからつくってみた薔薇酒は
甘すぎて失敗したみたい
「あたし悪酔いしたわ」
と、飲ませてあげた通りすがりの旅人が
悪態ついて、壜ごと何本もかち割り
ぶちまけるひと騒動
おかげで酒蔵はめちゃめちゃ
女のトラは怖ろしいと村人も震えていた
それも今は笑い話
さあ、
秋は深まるごとに忙しい
この森の小屋の葡萄酒は
哀しみを抱えた人をほろりと酔わせ
恋する人の切なさをしんしんと深くし
疲れた人をはんなりとほぐしてなぐさめる
けっして甘くない
そこそこにすっぱく
水のように沁みとおる
さらりとあとをひかない
だが
今年からは
収穫祭のあとの森番はわたし一人
酒に酔えないこのわたしは
閉ざされた森で
冬に向かう扉の内側で
なにを思いながら生きるのだろうか
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