「消去番号 −10.4.60−」

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  あのあやかしの森を愛していた
  あのうろだらけの不思議な木々の下に座って
  一日中風の音を聞いているのが好きだった
  木漏れ日が降り注ぎ、夢の歌がきこえた
  でも、気がついたら
  樹液の毒素と毒の花の強烈な匂いで
  肌は焼けただれ
  心は腐敗して少しずつ死んでいた

  毒の花の花粉が肌に服に髪にまとわりついている
  体中にあの木の樹液がねばり着いている
  今は、心が溶けて流れていくのをじっと見ているだけ

  澄んだ水で洗い流したい
  激しい流れに身を委ねたい
  洗って洗って石鹸のように溶けて小さくなっていく
  心のかけら
  いっそ心など無くなってしまえばいい
  どこにも消えて無くなってしまえばいい
  そうすれば誰にも盗まれない
  誰もおもしろ半分に汚れた手で触ることはできない

  いっそ自分など無くなってしまえばいい
  どこにも消えて無くなってしまえばいい

  もし死んでいった心たちがどこかで生まれ変わるなら
  腐敗の雨の降らない緑の草原で
  もう一度新しい森を作るための小さな種子になりたい
  角笛の音はもう聞こえない
  薄れていく意識の中で風の中の声はこう告げていた
  「消去番号 −10.4.60− フォーマット終了」






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