「消去番号 −10.4.60−」
¨・¨∵:*:∵¨・.*.・¨∵:*:∵¨・¨
***
あのあやかしの森を愛していた
あのうろだらけの不思議な木々の下に座って
一日中風の音を聞いているのが好きだった
木漏れ日が降り注ぎ、夢の歌がきこえた
でも、気がついたら
樹液の毒素と毒の花の強烈な匂いで
肌は焼けただれ
心は腐敗して少しずつ死んでいた
毒の花の花粉が肌に服に髪にまとわりついている
体中にあの木の樹液がねばり着いている
今は、心が溶けて流れていくのをじっと見ているだけ
澄んだ水で洗い流したい
激しい流れに身を委ねたい
洗って洗って石鹸のように溶けて小さくなっていく
心のかけら
いっそ心など無くなってしまえばいい
どこにも消えて無くなってしまえばいい
そうすれば誰にも盗まれない
誰もおもしろ半分に汚れた手で触ることはできない
いっそ自分など無くなってしまえばいい
どこにも消えて無くなってしまえばいい
もし死んでいった心たちがどこかで生まれ変わるなら
腐敗の雨の降らない緑の草原で
もう一度新しい森を作るための小さな種子になりたい
角笛の音はもう聞こえない
薄れていく意識の中で風の中の声はこう告げていた
「消去番号 −10.4.60− フォーマット終了」
***
¨・¨∵:*:∵¨・.*.・¨∵:*:∵¨・¨