ありがとう



俺が小学生前半の頃。
うちの父親は単身赴任で車で四時間以上かかる場所に住んでた。
母親はたまに仕事で職場にとまることがあった。
だから、両親がうちにいない夜が結構あった。
そんなとき、おじいちゃんがいつもとまりに来てくれてた。
いつも、自転車でうちまで来てくれてた。
うちまで来て、俺や姉が寝る頃に自転車で帰って行った。
いつもなら夜7時には布団に入って寝てるのに、その時は夜10時ほどまでうちにいてくれた。
いつもいつも、じゃれつく俺や姉の相手をしてくれた。
俺も楽しかったし、おじいちゃんも楽しそうだった。
でも、俺や姉は年を重ねるごとに監視がいるようで、鬱陶しく思ってきた。
そして、ある日、とうとうこんなことを言ってしまった。
「こなくていいよ、もう。
 おじいちゃんいるの邪魔だから。」



あれから、何年か経った。
俺は一人暮らしを始め、姉は父親と一緒に住むようになり、母親は相変わらず泊まりがあり。
うちは誰もいない日も少なくなくなった。
そして、おじいちゃんは、もう死んでしまった。
あの時、言ってしまった「邪魔だから」
今になって言い直すよ。
おじいちゃん、ありがとう。
おじいちゃんいたから両親がいない日も怖くなかった。
もう、遅いかもしれないけど。
ありがとう。
おじいちゃんが側にいてくれた間に言いたかった。



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