『クロース要塞の住人』



歴史的な「大移住」の後に建設され、軍部の反乱の時代に強化されたクロース要塞は、王国にただ1つ現存しているセックの建築物である。
当初の目的は、新参の移住者達を嫌って土着のドルーグが仕掛けてくる攻撃を食い止めることだったが、実際に公の軍事施設として用いられたのはわずかに2度、そして居住する者がいたのはセックがエッブで自由に振舞っていたわずか23年間に過ぎなかった。

要塞内部のさまざまな設備の中でも最も奇妙なものが地下のスカルホールである。
このホールは、もともと東方からの巡礼者たちによって造られた布教所だったが、セックが攻め落とした以後は俗用に転じ、貯蔵庫や監獄、さらにはスパイダーの飼育所として用いられた。

セックが追放された後、明け渡されたクロース要塞は、セックという種族と、彼らのエッブ王国に対する究極の裏切りをけして忘れないために、勅命によって保存されることとなった。
しかし、要塞の最後の住人たちが王国の兵士によって処刑されてから200年が過ぎた今なお、だれもいないはずの内部から絶え間なくざわめきが聞こえるという噂が消えたことはない。

要塞の地下では、エッブが一時的にセックの支配下に置かれたあの短い期間中にセックが行った恐ろしい残虐行為の犠牲者の怨念なのか、人間の悲鳴が今もこだまし続けているという。
クロース要塞にまつわる奇妙なできごとの噂は、それだけではない。
ときどき要塞の防壁から矢の届く範囲内の木々には、セックの矢が刺さっているのが見つかるという。
セックの矢など、もう何百年も作られていないというのに。


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