『マグの思い出』


マグは、イータン ストーンブリッジによって入植されたラバの直径子孫であり、宝石採掘場の石だらけの坑道を歩んだ数々の動物たちの中でも、ひときわ異彩を放つ存在だった。

地上よりも採掘場内の暗やみを歩きまわることを好み、しばしば縄を噛み切って逃げ出しては、数時間後、金脈が露出している場所に立ちつくしているところを発見された。
やがて坑夫たちは金のありかを嗅ぎわけるマグを「ゴールドスニッファー」と呼び、その鼻を頼りに新たな金脈を捜そうと試みた。
そして彼らは、マグには地中に眠っている貴金属の鉱床を探し当てる不思議な力が備わっていることを発見したのだ。

しかし、マグはときに気まぐれでもあった。
興が載らなければ抗夫たちに無駄な立て杭をいくつも掘らせ、地元の人々はそれらを「マグホール」と呼んだ。
マグはその特別な才能ゆえに多くの人々から愛されていたため、いずれにしても宝石採掘場の歴史にはそのナを残していたに違いない。
しかし、マグがこれほど人々の心に永遠に深く刻み込まれる大きな存在となったのは、943年の大爆発の際にマグが取ったある英雄的な行動のためだ。

この悲劇的な大災害は、掘削したばかりの立て抗にたまっていたガスが偶発的に引火したことに端を発し、採掘場の坑道はたちまち炎に包まれた。
現場で作業中だった数人の抗夫たちが、炎と岩石の降り注ぐ灼熱の地獄に閉じ込められてしまった。

突然の大惨事に肝をつぶし、轟音が鳴り響く災害現場からドワーフや人間が我先にと出口へ突進していく中、大爆発で混乱したのか、それとも何が起きているかを一瞬にして理解したのか、マグは飼い主の持つ綱を振り払い、もうもうと黒煙が噴出している坑内へと一目散に突進していった。

恐怖におびえて逃げ惑う人々の前から黒煙の中へと消えて15分近くが過ぎた頃、ついにマグが採掘場からよろよろと姿を現した。
しかもその壊れた馬具から垂れ下がる綱には、3人の瀕死の抗夫を乗せていたのだ。
「ゴールドスニッファー」マグは、このあまりにも重い荷物をふらふらと坑道の入口からほんの数メートルだけ運び出したところで、苦しげな息を立てて倒れこみ、そして2度と立ち上がることはなかった。

大爆発後、最後の生存者を安全な場所まで運び出したマグは、翌朝、悲しみにくれる人々に囲まれてその一生を終えた。
人々は、マグがその生涯でただ1度、命を賭して見せてくれた新の奇跡を心に刻みつけ、その死をつつ悼んだ。

18年五、マグが息を引き取った場所には、その最後の勇敢な行為をたたえて記念碑が建てられることとなった。


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