『ウェスリン クロスの廃墟』


フロストスパイア峠からわずか1時間ほど南下したところにひっそりと建つ人影もないウェスリン クロスの廃墟は、激動を極めるエッブの歴史上でも最悪の出来事をしめやかに今に伝えている。
もともとは宿屋として、帝国商人フィオラ ウェスリンによって7世紀に建造されたこの建物は、以後、兵舎、魔物の巣窟、門楼、そして王家の居城と、めまぐるしくその役目を変えていった。
その間、おびただしい血が流されたこの建物は、王国誕生の苦難の歴史を伝える呪われた場所なのである。

セックと帝国軍が東から進軍してきたとき、ウェスリン クロスは第10部隊によって堅固な要塞へと姿を変え、このとき関門を設けた地下通路と、宝石採掘場から掘り進められた洞窟とが結ばれた。

軍部の氾濫の際、この地下通路は一時期セックの手に落ち、そこでおびただしい数のギルドスパイダーが飼育された。
第10部隊が要塞を奪還した後、地下のスパイダーの檻はことごとく取り壊されたが、スパイダーの不思議な巣窟たる痕跡は色濃く残っており、セックによって操られていたアラカンスパイダーの子孫たちを今なお惹きつけてやまない。

935年、フロストスパイア峠北部に新たな要塞が完成するとウェスリン クロスにはもはや軍事施設としての利用価値はないものとみなされ、名誉ある要塞としての役目を務め終えてエッブ王家に引き渡されたが、その後15年間にわたって住む者もないまま放置された。

970年、「ゴブリン僭王」エドワルトがウェスリン クロス最後の正式な所有者となる。
エドワルト王は崩れかけた天井や部屋の修復に膨大な費用を惜しげもなくつぎ込み、40名以上のゴブリンの技術者たちを昼夜を徹して働かせた結果、崩壊寸前だったウェスリン クロスは見事に修復された。

その後、エッブ史上初の要塞であるこのウェスリン クロスは、第10部隊と背徳の大魔術師オルビスとの戦いの部隊となり、ついには不幸にも最後にして最大の野心を持った建築家である主の命により打ち捨てられ、荒廃していったのだった。


戻る