『薄闇』

 ツアーともなれば、基本的に部屋は相棒と一緒である。
 だからと言って、常に行動を共にしている訳ではない。今日もレオは遊びに来た友達と飲みに行き、スギは先に部屋へ戻って寝ることにした。そこまではいつものことである。

 ふと浅くなった眠りの中で、スギは何か物音を聞いた気がした。醒め切らない意識で、あぁレオが帰ってきたな、と感じる。わざわざ起きて迎える必要もないので、いつもならそのまま眠りに戻るのだが。
 しかし。
「………?」
 スギは布団の中でわずかな疑問を感じた。レオはどうやらベッドのすぐ横に立っている。黙って、おそらくはこちらを見ている。酒臭い微かなため息に薄目を開ければ、何かひどく沈んだ様子のシルエットが見えた。
「レオ?……お帰り?」
「あ……悪い。」
 声音はやはり暗い。どうした、とスギは上体を起こそうとした。
「寝てろよ」
 レオはベッドの横に腰を下ろし、スギの頭を枕に押し付ける。
「レオ、痛いんだけど」
 押さえ付けられたまま髪を乱暴にかき混ぜられ、スギは文句を言った。途端に手の動きが止まる。
「レオ?」
 上げようとした頭は再び枕に押し付けられる。
「スギ」
 表情のない声で、レオが口を開く。
「おれのこと、好きか」
「は?」
 考えるより先に唇が動いた。
「な、に。突然」
「迷うんなら、言わなくていい」
 吐き捨てるように言って、レオが腰を上げた。
「レオ」スギは飛び起きてその腕を掴む。
「待てって。最後まで聞けよ。」
 足を止めたレオの背に向けて、スギは言葉を選んだ。
「昔、言ったろ。爺さんになるまで、できれば一生って。」
 声に出しながら、スギは自分の頭がやっと回り始めたのを自覚する。レオのことが「好きか」なんてことは北極星が北の空にあるのと同じくらいの常識で、そんなことを急に聞きたがるのは、明らかにおかしいのだ。
「おぼえてるか?」
 一生を共に歩こうという、願いに近い契約を。
「――うん」
 返事と同時、掌の中の腕から僅かに緊張が抜ける。
「僕は同じことをレオ以外に言ったことはないし、今でもそう思ってる」
 スギはゆっくりと、手を離した。薄闇の中の背中に、笑いかける。
「君が好きだよ」
 面と向かってなくて幸いだった、とスギはひそかに苦笑した。そうでなければ、言わなければならなくても言えるものか。
 は、と息を吐き出すような音に、スギはレオが笑ったのを知る。
「安心したか?」
 問えば、後ろ向きのまま小さく頷いたレオの手がスギの頭を混ぜた。手にこもる力は優しく、いつもの調子に戻りつつある。スギは安心して布団を被った。
「じゃ、寝なさいね。」
「ん。………スギ」
 短い返事をして布団に潜ったレオが、不意にスギを呼ぶ。
「何?」
「俺、あん時会えたのがスギで、よかった」
 今度はスギが吹き出す番だった。言ったくせに照れたのか、レオのベッドから押し殺した笑いが聞こえる。さっきまで、あんなに暗くなってたくせに。
 よかったなら、よかった。
 返事を飲み込んで、スギは目を閉じる。これ以上言わなくてもわかるはずだから。
「おやすみ」
 薄明りの向こうで気の抜けた返事が聞こえた。

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 たまにはこんなベタベタなラブでもいいでしょう。(05/11/14up)

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