『我等の平穏な日常』

 じゃんけんぽん、あいこでしょ、しょ、しょ……
 延々とじゃんけんの声が続く。仕切り直しをして、まだ続いている。
「……頭の中、同じなんだね……」
「気色悪い事言わないでくれる」
 一足先に勝ってじゃんけんの輪から抜けたリエの一言にくるりと振り向いて、スギとレオが全く同時に口を開く。一瞬間を置いてびし、と相手にツッコミを入れる角度も線対称。
「……」
「落ち込む事もないと思うけど?」
 微妙な表情でお互いを見るスギとレオにくすくすとリエが笑う。
「そりゃ横から見てりゃそうかもしんないけどさぁ」
 不満げにレオがリエの方へ顔を向けた時を狙ったように、声がする。
「じゃんけんぽん」
 反射的にレオは開いたままの手をスギへ向ける。出した次の瞬間、出した手の迂闊さと相手の目論見と結果まで全て悟って相棒を振り返るも、時既に遅し。
「はい僕の勝ち」
 横ではスギが二本指を立てて笑っていた。
「ずるい、今のずるいよやり直し!」
「ずるくない、油断したレオが悪い。さ、買っといで」
 賭けの対象はコーヒー三人分、買ってくる労力込み。
「僕キャラメルマキアート」
「じゃあたしカフェモカ」
 にこにこと言う二人の注文に、部屋を出かかったレオの足が止まる。
「話が最初と違う気がするんだけど?」
「話ってのは最初と最後で違って当たり前」
「な訳ないだろうここから一番近いスタバまで行くのに片道十分はかかるんですけどねスギさん」
 その上、天気予報の通りならそろそろ雪が舞う頃だ。詰め寄るレオに、スギは一言。
「だから?」
「冷めてもいいんだね?」
「駄目」
 一瞬の沈黙の後、スギの側頭部目掛けてレオの足が飛び、それをスギが腕で受ける。いつもの事なので誰も動じない。リエは苦笑した。
「早く行かないと雪降りそうだよ?」
 窓の外はどんよりと曇っている。往復の行程を思ってレオは溜息をついた。
「行きたくねー……」
「そこの自販機までだろ我慢しな」
 レオは思わず相棒を振り返った。
「自販機にキャラメルマキアートは無いと思うけど?」
「あれは冗談だってば」しれっと返してスギは続ける。
「でも行く気だったなら行ってもらおうかなぁ?」
「自販機までな」
 再度希望を取ってレオは部屋を出た。
「ねぇ、スギ君聞いていい?」
 戸が締まるのを見送ってリエが言う。
「あの自販機って、確か」
「うん、多分ね」
 至近距離の自販機には、スギが指定した銘柄とは違う会社のコーヒーが入っているはずだ。
「ま、何か考えるんじゃないの?」
「あたし、よく相棒続けてられるねレオ君、って時々思う」
 呆れ顔のリエに、少し考えてスギは言った。
「僕もそう思う」

「スギが言った奴無かったからさ」
 ほどなく戻って来たレオはリエとスギに買って来たものを渡した。リエに渡されたのは普通の缶コーヒー。
「まぁ予想はしてたけどさ……」
 スギの手の中の缶はしるこドリンク。
「じゃ、文句は無いね?」
 スギは物言いた気に眉を動かしたが、黙って缶を開けた。
「甘っ。」
「しるこドリンクを一気飲みするか、普通」
 窓の外では今年初の白い雪が舞い始め、窓の中では相変わらずの日常が広がっている。


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 2002年11月14日作成、多分。
 別にスギの趣味がレオ苛めなのではありません。私の趣味です(最低)。

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