『宴会余興の盛り上げ方』
それはリエの作るブランドの、ちょっとしたファッションショーの打ち上げだった。ショーに関わったリエの友人達の中にスギとレオも紛れ込んで杯を重ねていた、時である。 「そう言えば、スギ君ってウエストどの位?」 リエの質問にスギが答えると、リエは頬を膨らませた。 「あたしより細いー。やんなっちゃうなぁ、もう。ねぇ、さなえちゃん」 傍らのさなえに同意を求め、そして不意に何か思い付いたようにリエは視線をスギに戻す。 「何?」 頭の上から全身を見るリエに、スギが居心地悪そうに問う。 「ねぇスギ君」 「ん?」 「ちょっとスカート穿いてみる気、ない?」 何しろここはリエの作業場である。しかもショーの後で衣装には事欠かない。 「……いやまぁ……別にいいけど?」 「やったぁ。さなえちゃーん、手伝ってよ、ね」 アルコールも手伝ってか、リエはさなえの手を取って嬉しそうに間仕切りの向こうへ消えた。衣装を見繕いに行ったらしい。スギは苦笑した。 「どんなのが出るかねー」 「頑張れよ」スギの横でビールを飲んでいたレオは冷静に返す。「やるって言った以上、自業自得だからね。僕はノータッチ。」 「まぁ高校の頃時々やらされたから、慣れてるけどね?」 言っている内にリエが顔を出し、スギを呼んだ。席を立つスギの背中へレオが呼び掛ける。 「骨は拾ってやるよ」 「声援ありがと」 間仕切りの向こうから聞こえてくる声は、服の様子がどうやら、似合うの合わないのと断片ながらそれなりに盛り上がっている。やがて、しきりの向こうからスギが顔を出した。 ひらりと翻るロングスカートは白で何段か切り替えの付いた、裾にはフリルまであるもの。その上に可愛らしい柄のオーバースカートを重ね、やはりフリルの付いたブラウスに丈の短い上着を羽織る組み合わせは、今回のショーの中でも一際少女らしくまとめた一式である。 「着られるから不思議だよな……」 レオがぼそりと呟くが、場は大いに盛り上がっている。裾をつまんでくるりと回ってみせるスギに、いくつもカメラのフラッシュが飛んだ。ポーズの付け方がもの慣れている辺りに「時々やらされた」キャリアが見えると言うものである。 「レー・オ」 後ろから掛けられた声と共に、ふわりとスギの腕がレオの首へ巻き付く。またフラッシュがひとしきり飛んだ。 「で、何だよ」 「そんなつれなくしなくたっていいじゃない?」払い除けようとするレオの手を押さえ、スギはにっこりと微笑む。何か企んでいる時程輝くスギの微笑みは絶好調に輝いている。 「レオも着ようね?」 「嫌」 一言で済ませるレオに、スギが絡みつく。 「レオだって僕とサイズ同じでしょー?ねぇお揃いで着ようってばー」 「衣装ならまだあるよー?」 スギと同じような笑顔を浮かべてリエが言う。スギと話がついているのはほぼ確実と見ていいだろう。レオはスギを振り返り、苦く意地悪く口元を歪めてみせた。 「スギがウエディングドレス着るんだったら白タキシード着てもいいけどね、女装はやらないよ」 「あ、それ面白いかも知れない」 「そこ、本気にしない!」呟くリエを慌てて止め、レオはスギに言った。「大体何で僕が着なきゃいけないのさ」 「だってコンビじゃない?」 レオは溜息をついた。 「別に解消してもいいんだけどね?」 「たかが宴会の余興で?」 そんな大人気ない、と笑うスギにレオは再び溜息をついた。 「……着ればいいんだな?」 場は再び盛大な声援を送った。 「ごめんね、無理言っちゃって」 間仕切りの影で、少しすまなそうに言うリエにレオは苦笑した。 「いやいいよ。で、どれ着ればいいのかな?」 「ええっとー…サイズはスギ君と同じでいいとして、レオ君の髪や感じに合わせるとー…」 ごそごそ、とリエは吊るされたままの服の山を選び始める。 「そう言えばレオ君はどうする、メイク。やっぱり嫌?」 さなえに言われてみれば、さっきスギが化粧をしていたようには見えなかった。 「あいつ、嫌だって言った?」 「うん、それだけは勘弁してくれって」 昔ステージメイクでかぶれた事がある、という言い訳はレオにも聞き覚えがある。本当は嘘だと言う事も知っている。 「僕はいいよ、平気だから。塗るなり剃るなり御自由に」 「よーし、レオ君はこれ!」 ばさり、と嬉しそうにリエが衣装を取り出した。 「着たら言って?メイクの用意しとく」さなえは笑う。 「スギ君より美人に作ってあげるから」 着替えとメイクを終わらせてレオが部屋の向こうへ一歩踏み出すと、また歓声と共にフラッシュが飛んだ。白基調でふわふわのスギの衣装とは対照的にすっきりと、黒い七分丈のハイネックにグレイ基調で複雑に色の混じったチェックのシンプルなワンピース。覗く足下は濃い色のストッキングを履いている。メイクはきつくは感じない程度に、それでも確実にレオの顔を引き立たせていた。スギより美人に作ってみせる、と言ったさなえの言葉に嘘は無い。 「スギ君どーお?」 上機嫌にリエはスギに問うた。さっきからスギは珍しく何も言わずにレオを見ている。 「あぁ、うん」 何か考えているスギに、レオはにこりと微笑んでみせた。刹那。 スギがレオを抱き締めた。 「新婚旅行は熱海にしような!」 次の瞬間、レオの拳はスギの脇腹に吸い込まれる。 「そういう事言ってるから誤解されるんだ、バカ!」 「何だよ折角美人だって褒めてるのにさー」 「嬉しくない!褒めるとこぜーったい間違ってる!」 「レオだって満更でもなさそうな顔してたじゃないか」 「あのね、2人とも」 このまま喧嘩になだれ込むかと思われた2人の口論にリエの声が割って入った。 「仲良く喧嘩してるとこ悪いけど、その服汚さないでね?」 静かな声と、穏やかなその笑顔が却って怖い。 「……汚さない内に着替えてきまーす」 「さなえちゃん、クレンジング貸してくれる?」 どことなく棒読みに言うと、2人は何事も無かったようにその場を後にした。 「ちょっと勿体無かったかもね」 元の服に着替えた後で、スギが言った。 「馬鹿言ってんじゃないよ、もうしないからな」 「あぁ、白タキシードなら着てくれるんだっけ?」 「……もう一度殴って欲しいらしいね、スギ」 「いや、それは御免だけどさ」ぱきぱきと指を鳴らすレオにスギはひらひらと手を振り、そして続ける。 「どうせなら2人でリエちゃんの花嫁さんにならないか」 返事代わりに、レオはスギを殴り飛ばした。 −−−−−−−−−
自分に優しいリサイクルその2。『Sweet Chocolate Taste Bitter』 同様別サイトに置いていて、同時期に書いたものなのですが……いつのだったかしら。2002年なのは確実ですが。
やけっぱち気味女装コント。新婚旅行が何故熱海なのかは元ネタがあります。実はうしおととらです。紫暮父ちゃん大好き。 BACK |