『へべれけ』

 少し頭を振ってみた。思った以上に視界がぶれて、KKは軽く舌打ちをする。思ったより酒の回りが速いということだ。
 しょうがねぇ、とKKは腰を上げる。少し席を立ってアルコールを抜いた方がいい。
「あっれーKKどっこ行っくのー」
「まーまー座って飲みなよもう1杯」
 にこにことわざとらしい笑顔を浮かべるスギとレオに、KKは顔をしかめた。
「……っせぇな」
 そもそも、こんなに飲み過ぎたのはこいつらの所為なのだ。
「なぁんでよ、聞いたっていいじゃーん。ね、どこ行くの?」
 つくづく年齢不詳の顔でふわりとスギが笑う。KKはため息をつく。
「便所行ったら悪いか」
「あ、吐く?どうせ吐くんだったらその前に入れて行きなよもう1杯」
 ね、と小首を傾げてレオがピッチャーのビールをグラスに注ぐ。どうでもいいが、何で肚の中に企みがある時のこいつらは、双子みたいに同じ顔に見えるんだろう。
「そうそう、駆付け3杯、早退け5杯っていうし」
 ビールを差し出すレオの隣でスギが意味不明のことを言って笑う。言い逃げるのも面倒になり、KKはビールを受け取って一気に呷った。
 そこまでは記憶にある。

「KK」
 揺すられて、KKは鬱陶し気に目蓋を震わせる。
「眠ぃ……」
「こんなとこで寝るなよ。せめて寝る前にコレ飲んどけ」
 口元にガラスの感触がした。
「もう、飲めねぇよ」
「ばか、酒じゃねぇ。水だ」
「ん」
 ゆっくり口の中に流し込まれるそれが、水の味がするのを確かめて、飲み込む。ほんの少しだけ、体を支配する眠気が薄くなった気がする。
「おかわり」
 目を閉じたままKKがコップを揺らすと、わざとらしいため息の後、横に居た気配が遠ざかった。
 今のは誰だったろう、KKはぼんやり考える。知っている男の声だったと思う。誰、と特定するのも面倒な程、眠い。体に上手く力が入らない。
「爺ィに知れたら、殺されっなぁ……」
 独り言を呟く自分の声が、頭蓋骨の中で響く。KKは腫れぼったい目蓋に手を載せ、苦笑した。自分の体の制御が自分で取れない、こんな時に何かあったらそれこそ笑い者だ。
「KK」
 さっきの声が、頭上から降ってくる。
「んあ」
 KKが返事にならない返事をすると、男は腰を下ろしてKKの顔の上に載せた掌にコップを触れさせた。
「あ、気持ちいー……」
 思ったことが、考える間もなく口からこぼれる。ひんやりと冷えたガラスの感触が、KKの火照った掌から熱を奪った。
「こぼすぞ、飲みてぇならちゃんと持て」
 不機嫌で無愛想に聞こえる声だが、その声が聞こえることにKKはひどく安心している。それに気付いて、KKは小さく笑った。
 しばらくガラスの冷たさを楽しんでから、KKは水を口に含む。
 水を甘い、清いものに感じる。
 薬のように劇的に効く訳ではないが、火照って芯のぐだぐだになった体にしみ込み、少しずつ常の意識に戻して行く。
 無愛想な声に抱く印象も、同じようなものだ。言葉を紡ぐのも覚束ない脳にしみ込み、常の自分に戻るまで辛抱強く待っていてくれるだろう。
 普段は考えもしていないのだが、案外自分はこの男に頼っているのではあるまいか。
 腹の底からふつりと沸き上がる笑いに、KKは身を震わせた。
「……きもっ」
「あァ?」
 不機嫌の中に呆れを帯びた、声がする。KKはまだ収まらない笑いに腹を震わせながら、言った。
「なんでもねぇよ」
 目を開ければ、水色の髪と赤い瞳の男が仏頂面で見下ろしている。
「なんでもねぇよ、六」
 口に出してみて「あぁ、こいつそういや六って名前だった」と思う位だから、自分は相当に酔っているらしい。KKは体を折り曲げてくつくつと笑った。寝転がったまま体を捩って、背中を六の体――この安定した感じは多分、腰の辺りだ――に触れさせる。
「何だ、気色悪い」
 六の不機嫌さを増した声が、やけに愉快で心地よい。
「べぇつにぃ」
 KKはにんまりと意地悪く笑い、六を見上げた。
「酔っ払いのするこった、大目に見ろよ」
 再び強くなった眠気に任せてKKは目を閉じる。動けない自分の背後に人がいるのに、不安を感じない。
 あぁ、気を付けないとな。
 眠りに落ちる寸前、KKは思った。いくら何でも、どうかしている。
 ここが居酒屋なのを忘れて、六の膝を枕にするところだった。
 いくらなんでも、それは。KKはもう一度、唇を震わせて、笑った。

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 8000ヒットキリ番記念。「solitary eden」のアキバジン様へ。頂いたお題は「酔っ払いKK」でした。
 カプ指定はなかったのですが、ぐでんぐでんのKKを書いていたら、いつの間にか介抱するのは六でした。
 なんか、中途半端にぐにゃぐにゃ甘えているKKになっちまいましたが……こんなんでもよろしければ、受け取って下さい。
 そして遅くなってごめん。今後ともよろしうにー!(06/04/15up)

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