『最適化温度』

 ゲームセンターの中、MZDがアレやろうと指差したのは、1台のガンシューティングゲームだった。
「お前と2人でかぁ?」
「いーじゃん、お前とオレとならできるっしょ」
 嬉々としてコインを放り込み、MZDはにまりと笑った。
「ほら、1回分おごってやっから。来い来い」
 ため息をひとつ吐き、KKも銃を手に取った。ゲームセンターの中でもひときわ大型のそれは、多人数で遊ぶことを前提に作られたものである。人数が少なくなれば当然1人当りの負担が増え、疲れるのだ。
「手近な所はオレやっからさー、KK遠いとこの頼むな」
 ゲームが始まると、MZDは嬉々としてライフル型の銃を撃ち始めた。撃つ、銃口を下げて防御する、また撃つ。手近な所の敵はMZDが倒し、KKの仕事は遠い所、小さな的など難易度の高いところを撃つことだ。
 そうやって何面かを過ぎた頃、KKはふと引っ掛かるものを感じた。
 MZDの撃った敵からちゅいん、と音を立ててアイテムが現れる。すかさずMZDがそれを取り、彼の銃はマシンガンになった。画面を埋め尽くす勢いの敵を一掃して、MZDは満足げに口元を歪める。
「……今、お前ズルしなかったか」
 KKはぽつりと呟いた。
「あ、バレた?」
 子供じみた笑いを浮かべるMZDに、KKは無言で頷いた。さっきの場所で敵を倒してもマシンガンなど出はしない。
 画面が切り替わり、芝居がかった警告画面が点滅する。これから中ボス戦だ。盛り上がる画面とは裏腹に、KKは自分の気分が冷めていくのを感じた。
 だから、銃を台座に戻すことにした。
「そーゆーことすんなら俺いなくてもいいだろ、抜けるわ。」
 精々冷たく言ってやって、KKは1歩下がる。ポケットから煙草を出し、くわえた。
「いやーん、鬼ー、オニーッ」
「ライフ満タンだろ。てきとーなとこで銃変えられんだろ。なら俺はいらねぇよな?」
「もーしない、もーしませんから!てか1人じゃズルしても面倒ッ……」
 MZDが言い終わる前に画面が切り替わった。中ボス戦にふさわしい、華やかな集中放火が始まる。
「わー、ちょっ……助けろKK!」
 大騒ぎしながら応戦するMZDのライフが減る。その隣、放ったらかしの自分のライフも減っていく。MZDの銃に付いていたマシンガン機能はあっという間に効果切れし、普通の銃に戻った。KKの分のライフも残りひとつになる。
 KKは煙草のフィルターを噛み、笑った。
 手を伸ばし、再び銃を取る。防御、同時に装弾。構えて連射。数カ所に散らばるボスの急所がひとつ減った。
「ヒュゥ」
 鮮やかな手並みに、MZDが口笛を吹く。
「手ェ止めてんじゃねぇよ。とっとと撃て」
「へいへい」
 小馬鹿にしたように見えるMZDの笑い方は、上機嫌の証である。
「愛してんぜKK?」
「……もいっぺん抜けたくなるようなこと言ってんじゃねぇよ」
「抜けたって撤回はしてやんないから安心しな」
「言ってろ」
 それからゲームが終わるまで、MZDがズルをすることはなかった。

「なぁ、お前何が楽しくてアレやってんの」
 KKはポテトをつまみながらMZDに問うた。ハンバーガーショップのセットメニューはMZDのおごりである。
「アレってどっちよ。ゲーム?ズル?」
 コーラを行儀悪く音立ててすすって問い返すMZDに、KKはふた呼吸程考えて、答えた。
「両方、かね。」
「あ、そ」
「ていうかあんたならズルし放題、勝ち放題だろ。何が楽しいんだ?」
 MZDはサングラスの奥からKKを見、口元を緩ませる。
「案外堅いんだよなぁ、Kちゃんってばさ」
「そりゃ悪かったな」
「そこがいいんだけどね」
 言って、MZDは身を乗り出した。
「俺はさ、ズルすんの好きなのよ」
「そりゃまた勤勉な神様だこと」
 KKの皮肉が通じた様子もなく、MZDは芝居がかった仕草で「わかってないなぁ」と人さし指を左右に振る。
「ズルしずらいルールの中じゃないと、やり放題になるようじゃ楽しく無い訳よ」
「……あれ、やりずらいんか」
「うん。お前の動きやなんかまで考えに入れて、あんまり目立たない程度にしとかないといけないからさ」
 KKはふーん、と気のない返事をする。だからどうした、という気の方が強い。
「で、お前嫌いだろ?ズル」
「別に、そんな真面目な訳でもねぇけど」
 KKはわずかに鼻白む。ズルを断固許すまじと思っているのではない。目の前でそれをされると、ひどく冷めるというだけだ。多少のズルをしてでも欲しいと思う執着を感じたことが無い所為かもしれなかった。
「お前が真面目だなんて言ってない。」
 MZDはあっけらかんと切り捨てて、ただな、と続ける。
「断固として許さないっていう奴でも困るし、喜んじゃって俺の分もってせがむような奴でも困るんだよ」
 MZDの手が伸びて、KKの頬を軽く撫でた。
「お前の態度は、程がいいんだ。」
 神の呼び名に相応しい慈愛に満ちた笑みを浮かべ、MZDはゲームセンターと同じ言葉を口にする。
「愛してんぜKK?」
「言ってろ」
 KKはMZDの向こう脛を蹴飛ばした。


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 5555ヒットキリ番記念「ユルリラ」の永瀬るぅ様へ。お題はシンプルに「神K」とのことでしたので、お言葉に甘えて好き放題書きました。うちの神Kなんてこんなものですが……。本当にカプか、これ……。お粗末様でした。申告&リクありがとうございました!(05/10/10up)

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