「花見3題+1」
 ※桜の季節、掲示板で連日書いていた花見小ネタを加筆修正したものです。


1:神ケ
 KKが見上げると、淡い紅を差した白い花弁が散っていた。
 昨日見た時には1つか2つ花が咲いていたかという程度だったと思うのに、随分早い。青みを帯びた純白の花は、柔らかな春の日射しを受けて内側から光るようだ。休日なら花見客でごった返すであろう場所でも、平日の昼間であれば人気は少ない。KKは口元を引き上げた。
しかしすごい花の量だ。
 雲のように盛り上がる花を付け、木の高さも通常のソメイヨシノより高く思える。新宿とは思えぬ静かな空間に、桜の色だけが広がってゆく。
 KKはふと我に返り、気配を探って目を凝らした。
 ここにある筈の木は昨日は確かに普通の桜だった。今いるはずのこの場所も、いくら平日の昼間とは言え人通りの絶える場所でもない。ありえる光景では無いのだ。
 とすれば解答はひとつである。
「よー、KK」
 はるか頭上で予想通りの声がした。KKは1歩引き、木の上を見上げる。白い淡い花の雲の切れ間を探せば、人の悪いお調子者の顔が見えた。
「これは何の余興だMZD」
 KKが苦笑をすると、MZDは目を細める。
「忙しくて花見にも行けない労働者に、マヨイガのプレゼントだ」
 すい、と木の上から腕の形に影が伸びる。手には小さな杯が載っていた。日本酒の匂いが鼻をかすめる。
「折角だ、一杯やってから行けよ」
「……仕事中に昼酒でいいのかね」
「固いこと言うな、1杯だけさ」
 花の量はいよいよ増し、地面まで花の色に染まっている。ここが常の場でないことは明らかだ。
 KKは杯を受け取ると、かの神に軽く掲げて飲み干した。花弁がひとひら、アルコールと一緒に喉へ落ちる。干した杯を受け取り、影は主の元へ戻って行った。
「仕事の途中なら引き止めやしねぇよ。今度もっとゆっくりな」
 了承の合図に、KKは笑みを浮かべ、帽子のつばに指をかけて一礼する。
 花の雲の向こうで、MZDが手を振るのが見えた。彼の座る枝が不意に遠くなり、薄青い空の割合が増えてくる。
 一瞬の目眩の後に目を開ければ、KKは元居た道端に立っていた。
「……。」
 KKは傍の桜の木をもう一度見上げてみた。満開になる寸前の桜の中に、騒々しい男の名残りが見えた気がする。
「御苦労さん」
 何とはなしに木に声をかけ、KKは仕事先へ足を向けた。少し、早足でなければならないようだった。

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 しばらく身も蓋も無く迷惑な神様を書いていたので、多少はかっこよく、多少は神様らしいMZDを書こうと思いました。思っただけですが。


2:六ケ
 いい天気だ。花に嵐と言うが、今年の桜は幸いまだ無事でいるようだ。満開の白い花が窓の外にも微かに見えた。
 KKは上機嫌に鼻歌を歌いながら洗濯機を回している。洗濯日和が休日と重なっているとあれば、気合いを入れて洗濯に励むのは当然のことであった。
 KKにとっては。
「あ、何窓閉めてんだよ六」
 洗濯機の前から窓を振り返り、KKは文句を言う。
「うるせぇ、暑いし外もうっせぇんだよ」
 六は文句に言い返して鼻をすすった。
「暑いなら開けりゃいいだろ、窓。」
 KKは窓に歩み寄り、再び窓を開けようと手を伸ばす。その腕をがっしと掴み、六はKKを睨み付ける。KKは睨む六を鬱陶し気に見返し、言った。
「お前さぁ……いい加減認めろよ。花粉症だって」
 この春、六はついに花粉症1年生となったらしい。幸いと言うべきか重症ではないようで、本人は頑として花粉症では無いと言い張っているが傍目には立派な花粉症だ。
「違う、ただの鼻風邪だ」
「じゃぁ開けるぜ、窓」
 窓を開けようとするKKの腕を、六は押し返す。攻防することしばし、KKは腕を引いた。
「だからよ、せめていい加減マスク買えって」
「お笑いぐさじゃねぇか」
「じゃあ病院行けよ」
 六は拗ねてそっぽを向いた。
「俺は花粉症じゃねぇもん」
「そーですかはいはい」
 KKはいい加減に言って洗濯機の前へ戻った。
「しかしまー鼻風邪にしろ花粉症にしろそれじゃ花見にも行けねぇなぁ」
「別に、構わない」
 KKは思わず言った本人を振り返る。六は不本意げに目を細めた。
「何だよ」
「……や、意外で」
 騒ぐのは嫌いなはずが無い、酒も好きだ、その上商売柄か季節感に敏感な男が、花見に行きたがらないはずが無い、と思っていたのだ。
 六は赤くなった鼻の下を擦って、鼻をひとつ鳴らした。
「桜は本来嫌いじゃねぇが、あんな乱痴気騒ぎに巻き込まれんのは御免だ」
「そんなものかね」
 雪が降った時には犬よろしく外へ飛び出していった六を思い出してKKは首を傾げた。
「掃除屋」六はKKをにやりと見返し、にんまりと笑う。
「ひとつ教えておいてやろう――花は外じゃなくて、ここにある」
 六は己が胸に親指を当て、続けた。
「見なくとも、その粋を感じ取る。それが『心意気』って言う奴だ」
「ふぅ、ん」と一瞬感嘆したKKは次の瞬間感心したことに後悔した。
「お前去年居たろうが、MZDの花見大会」
 思い出してもあれは見事な乱痴気騒ぎ以外に形容しようが無い。
「とっとと花粉症治せよ。開けるぜ窓」
 そして話は振り出しに戻る。

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 桜と六を正攻法で書くとハマリ過ぎて面白くないかも、と思ったので奇襲です。すまん六。



3:マコケ+サイケ
 マコトはうきうきと鼻歌を歌いながら支度をする。何しろ今日は久し振りに休みだ。前もって「休みなんです、Kさぁん」と甘え声を出して一緒に遊びたいと言ってみたら、案外あっさりとOKが出た。
 気持ち悪い声を出すな、とは言われたが、いつものことなのでマコトは気にしないようにしている。それでも鼻歌くらい出ようというものだ。
 KKが、自分の休みに合わせて休みを取ってくれた。
 この1事だけでもマコトは心が浮き立つのを抑えられない。相変わらず、KKに恋を愛を告げては困った顔をされている片思いの日々だ。その相手に嫌われてはいない、むしろ大事にされていると思えば当然のことである。
 その好意は恋では無く友情だという所には、あえて目をつぶることにする。
「何兄貴、出かけんの?」
 振り向けば戸口から弟であるサイバーがのぞいていた。
「俺も行こっかなー」
「だめ。お兄ちゃんはデートなの。」
「……ふぅん、その浮かれようじゃぁ相手はKKのおっさんか」
 マコトは一瞬言葉に詰まった。サイバーは日頃の言動からは誤解されがちだが、鋭いところがある。こんな時ばっかり、という説もある。
「んじゃ俺もついてくー」
「だめ!今日約束したのは俺なの。」
 日頃弟に激甘と言われるマコトでも、譲れないものがある。サイバーはちぇーとむくれてみせた。
「だっておっさん俺と2人でなんて会ってくんねーんだもん、楽屋か兄貴と一緒でなきゃさぁ。なぁ兄貴、おっさんの住所知ってんだろー、せめてそれ教えてよー」
「それもだめ。自分で頑張りなさい」
「ちぇ。兄貴ってばおっさん関わるとすげーケチ」
 マコトは相手にしなかった。可愛い弟とは言え、恋敵の気配すら見せ始めている男にそうそう情報をくれてやる気は、さすがにない。
「じゃ、行ってきます」
 弾む足取りで家を出たマコトは、角をひとつ曲ったところで振り返り、ため息をついた。
「だから連れてかかないって言ったろ?」
 3歩後ろに弟の影。サイバーはへろりと笑う。
「俺も出かけるの。たまたま一緒の方向なだけー」

「遅れてごめんなさい、出がけにちょっと弟が」
 留守番料として薄い財布を更に薄くさせられたマコトが、KKに頭を下げる。
「大して待った訳じゃない、気にするな」
「で、花見ってどこ行くんですか?」
「ちっさい雑居ビルの屋上なんだけどな。目の前に桜が見えるぜ」
 仕事で見つけたんだ、とKKは嬉しそうに笑った。
 ほんのひと角外れただけで、人の気配がぐっとなくなる。目的のビルに着き、今時珍しく鍵のない古ぼけた外階段を上がる。屋上へ上がる所にはさすがにちゃちな戸があり、鎖と南京錠が掛かっているのをKKの手を借りて乗り越えた。許可の無い所に入り込む秘密とスリルが心地よい。校舎裏で煙草を吸う高校生の気分が、少しわかる気がした。
「な?」
 KKがマコトを振り返り、少し誇らし気に胸を張った。
「ほんとだ、すごい」
 低い屋上の塀越しに、桜の木の頭が見える。身を乗り出せば、視界の下がすぐ桜だった。
 KKがここへ来たのは、どっちの仕事なのだろう。
 ふとそんな事を考えれば、僅かの風にも散って行く桜の花が、何だかとても切なく見えた。
「Kさん」
「ん」
「来年も、来ようね花見」
 KKは、確答せずにただ笑う。
 散りかけの頃合、満足な花見は今日一杯が限度だろう。花弁がふわり、と浮き上がり2人の上を掠めていった。

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 大幅修正、と言うかほぼ書き直し。もっとサイバーが出張ってくるはずだったのですが、長くなるしマコトがあまりに哀れなので持ち越しに。頑張れマコト。


4:レオスギ
 桜を見に行こうと言い出したのは、スギだった。
「……元気だね、お前は」
 レオはげんなりと呟いた。オールナイトのポップンパーティが明けたばかり、空はようやく夜の闇から解放されたばかりの時間である。
「まぁ、僕はちょっと寝てたからね」
「いつ」
 思わず問い返す。常に、ではないが概ね一緒にいたはずだ。スギは微妙な笑顔で相棒を見た。
「……レオが皿回しながら歌ってたのは知ってるよ、うん」
 知っていたのであって、聞いていたのではないということは。
「スギ、お前なぁ」
 レオの物腰は怒ったというより、呆れたに近い。
「はは、ごめん」
「いいけど」
 淡々と言葉を交わしながら2人は歩いて行く。早朝の空気は冷えていて清清しい。寝不足でアルコールの入った頭でなければ、の話であるが。
 交差点で、スギは足を止めた。
「ま、いいや。僕だけ行ってくるよ。すぐそこだし」
「行かないとは言ってないだろ」
 川べりの遊歩道に向けて、歩く。そろそろ花見も終わりの頃だ。この界隈では桜の名所である遊歩道は、昨日もたくさん花見の酔客で賑わっていたことだろう。ゴミ箱を埋めつくし、辺りに散らばるゴミを見れば、程が知れる。安っぽい花見提灯が、朝の白けた光の中で揺れていた。
「今日一杯かなこれは」
 スギが言うのに、レオはそうだね、とだけ答えた。風があるのか、時折ひらひらと花弁が舞っている。足下にも川面にも、うす桃色のまだらができていた。
「ギリギリ間に合ったね」
 スギは伸びをして、満足そうに笑った。レオは首を傾げる。
「そんなに好きだったか、桜」
「好きよ?桜に限らないけど」ひらりと落ちてきた花をつかみ取り、スギは言う。
「季節ものって言うかね。『桜はじめました』?あぁ言う雰囲気が好き。」
「冷やし中華かよ」
 笑って、ふと前方の桜が目に止まった。不自然に揺れている。揺れる度に、花弁が落ちていく。
「烏だ」
 同じものを見ていたらしく、スギが呟いた。
「スズメや鳩は食べるけどね、花。烏はどうなんだろ」
「さぁ……」
 レオは首を捻る。わざわざ花を食べなくても、花見客の食べ残しがそこら中にあるはずだ。
「遊んでるんだったり」
 レオの思いつきに、スギは肩を揺らした。
「賢いって言うしね烏。……ちょっといいかも、それ」
「だろ?」
 烏は何が楽しいのか、すぐ横を人が通り抜けても相変わらず桜の枝を揺らし、花を散らせている。
「なんか、さぁ。」
 スギは烏を振り返った。
「面白そう、だよね」
 ぽつりと言う声に、瞬間嫌な予感がした。
「おい、待て」
 レオが言った時には既にスギは駆け出していて、止める間も無く枝に飛びついた。
 ざん、と枝が大きくしなり、花弁がひと塊、一斉に落ちた。
「スギ!」
 着地し、立ち上がったスギは降り掛かった花弁と朝露を払う。その手に桜の枝が握られていた。
「あーぁ、可哀想に」
 レオは眉を寄せる。手の中の枝はいかにも細く、その身に付ける花ですら重そうに見えた。
「責任取って大事にするよ」
 言ってスギは桜の花に口付ける。嬉しそうに目を細めるので、レオはそれ以上の文句を引っ込めた。
「……欲しかったのか?」
「割と。レオが欲しいなら譲る」
「いらない」
 レオは素っ気無く答えて、スギの髪に残る花弁を取ってやった。
 その薄片をひと呼吸眺めてから、レオは指先から振り払う。
 こんな大きな烏に口付けなんか、しなくてもいい。

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 書き足しです。掲示板には上げなかった、というか構想した時には桜が散ってた。実際烏が桜の間でうろうろするかは、疑問。確かめた訳じゃないし……。
 でも桜に烏という図は好き。(05/04/22up)

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