『グリーンピース』

 食堂で昼食を取っている時である。坂崎はふと真田の皿に目を止めた。
「甚」
「ん?」
「嫌い、なのか?」
 坂崎が指差すのは皿の上。炒飯の中に入っていたはずのグリーンピースだけがはじき出されて残っている。
「積極的に好きではない」
「そーか、俺には積極的に嫌ってるようにしか見えねぇが……」
「坂崎が好きならやる」
「いらねぇよ。こっちの皿に移そうとすんじゃねぇ。」
 自分の皿を遠ざけて、坂崎は真田の額に手刀を入れる。
「て言うかなぁ、好き嫌い言うようなもんじゃねぇだろ、食え!」
「断わる」
 たかが数粒の豆なのだが、断固として断わられると意地のひとつも張りたくなるというのが人情である。
「じゃ、俺が勝ったらお前それ残さず食えよ?」
 坂崎が言えば、真田も不敵に目を細める。
「その代り俺が勝ったら坂崎が食うんだな?」
「あー、食ってやるともその位」
 はん、と坂崎が鼻で笑い、2人とも腰を上げた。ぱき、と関節を鳴らす。
「じゃ行くぞー、せーの」
 坂崎が軽く息を吸う。
「あ、さぁいしょはグー。」
 ジャンケンポン、と妙に気合いの入ったテンションで勝負が始まった。あいこがしばらく続き、そのまま「あっちむいてホイ」に切り替わる。もとより潜水研修生の中でも成績優秀、運動神経にも反射神経にも優れたもの同士の戦いである。たかが「あっちむいてホイ」とは言えかなり白熱したスピード勝負になりつつある。
「あちむいてほい、勝ったぁ!」
 びし、と拳を突き上げて叫んだのは坂崎であった。
「と言う訳だ。どーぞ。」
 真田は表情の動きに乏しい方だが、明らかにとても嫌そうな顔をした。そして半ば自棄のように口の中に放り込み、ダッシュで食堂から消えた。
 坂崎は呆然とその背中を見送りながら、頭を掻く。何だか妙な罪悪感がある。
「なぁ、グリーンピースってそこまで嫌う程のものか?」
 坂崎は隣の同級生を捕まえて、聞いてみた。
「坂崎、お前何か食えないもんってあるか?」
「無ぇ。」
「じゃ、お前にはわかんねぇよ、多分」
 釈然としない面持ちで坂崎は首を傾げていたが、結論は出なかった。
「ま、いっか。今度気ぃつければ、うん」


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 坂崎班長と真田隊長の潜水研修時代捏造。まぁ実際はこんなことは無いと思うけど。
 真田隊長を見ていると、何かよろず好き嫌いが激しそうだなーと。世の中には好き・嫌い・どーでもいいの3パターン位しか無いとよいよ。好きと嫌いで普通が無いの(クリーミーマミかという)。
 で、好き嫌いのパターンで一番分かりやすいのはやっぱり食い物ですから。
 ちゃんぽんに入っていなさそうなもので、嫌いでも支障なく生存して行けそうなものを考えたらグリーンピースになっただけで、真田隊長の食嗜好に関しては本気で全くの捏造です。
 多分、実際は好き嫌いの無い優等生だとは思う。でも。(06/03/19up)

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