毒っ吐き外法帖トーク

 くどいようですが、まず私が「東京魔人学園伝奇」シリーズを嫌いな訳でもなければ外法帖を完全に否定する意図がある訳でもありません。また私は素人ですから商売ものとしてのゲームシナリオや歴史に関して絶対私の方が正しい、などと思い上がった事を申し上げる気もございません。
 そういう事を言う奴もいる、程度の気で読んでいただければありがたく存じます。

 さて。

 それでは拭い難い不満だけを2つ、申します。

 まず第一の不満はディスクごとのシナリオ比重のアンバランス加減です。
 陽は幕府方、陰は倒幕方、ふたつの違った意見、違った立場というふれこみであったと記憶します。つまり、この2つのシナリオは比重を同じくするのだという姿に見えます。
 プレイした後の印象を正直に言えば、陰側のシナリオを見せたいが為だけに陽のシナリオが存在しているようにしか思えません。
 敵である鬼同衆にも惹かれるものがあったり、幕府って酷いのねという所を見せられ、幕府方に与する自分の行いに疑問を持つのが陽シナリオなら、陰シナリオの鬼同衆の側にだって幕府(龍泉組以外で)にだってよいところがあると見せられたり、倒幕派とは名ばかりの只の暴漢の集団に理想を挫かれる場所があってしかるべきだと思うのです。
 自分の行動と所属に疑問を持ち、割を食うのが基本的に陽ディスクだけ、というのが納得いきかねます。

 元来幕府に縁も薄く義理も無く、ともすれば幕府に反抗的な龍泉組と、倒幕と言いつつあまり倒幕へ向ける強い意志を感じさせない鬼同衆の組み合わせでは喧嘩にならない、というより一方的に龍泉組が鬼同衆へ共感を寄せているようにしか見えませんでした。

 同じ意見を持つ登場キャラを2つの勢力に分けて対決させる理由がわかりません。

 また主人公はどちらの側にも属した経験を持ち、どちらの意見もわかっている唯一の人物ですが、どちらもただ見ていただけで、邪ディスクに入ると結局新たなる共通の敵(柳生)を倒す為に連合するシナリオですから調停役として2つの組織を仲直りさせたぞ!という充実感も感じられませんでした。

 じゃぁ主人公は何の為に時を遡って両陣営に属さねばならんのですか。

 悪の根源が柳生なら鬼同衆が倒幕で、龍泉組が佐幕でなければいけない理由って何なんでしょう。

 更に言えばどうしても幕末でなければいけないんですか、この話。

 このエンディングから幕府と江戸の街への恨みをもって鬼同衆が復活する『剣風帖』への繋がりも解せません。

 舞台、設定、話の筋が噛み合わず、全話通しで見るとどうにもちぐはぐな印象が抜けないのです。それが不満のひとつめです。

 ふたつめは中途半端な時代考証です。
 時代考証を考えないなら考えないでいいんです。こっちだって魔人で歴史のお勉強をしようなんて了見は端からもっちゃぁいません。極論を言えば江戸時代に自動車が走ってようが、今現在まで徳川幕府が続いてようが面白ければ構やしないんです。
 だから髷キャラがいない、とかそんな服装江戸時代にあるかって所は全然気になりません。別に新宿は当時江戸の範囲に入ってない代官支配地だとか、王子まで舟でってどこに川があるんですかとか、それにしても随分歩きますねとか、陸路と海路が同じ時間で京都までどう着くんだとかそんな事も笑って過ごす事もできますが。
 ただ、話に組み込むような大事なパーツで半可な知識振られると、すごく痛いのです。

 せめて、火付盗賊改方を「八丁堀」って言うのやめてもらえませんか。

 八丁堀と称されたのはあくまで町奉行所所属の同心であり、火付盗賊改方を指すものではありません。火付盗賊改方は旗本御先手組の鉄砲組・弓組・槍組等の侍に加役として命ぜられた、奉行所にくらべるとずっとイレギュラーな警察組織です。加役、つまり本来の役目は他にあるけれど仮に当てられた部署ですね。
 町奉行所の役宅は確かに八丁堀にありました。しかし火付盗賊改方の役宅はその時火付盗賊改方に任ぜられた御先手組の組屋敷や組長家がそのまま役所と役宅に使われます。よって火付盗賊改方という部署に固定された役宅はありません。『鬼平犯科帳』を御存じの方ならおわかりでしょう。平蔵や配下の与力・同心が八丁堀と呼ばれていた事は一度も無いはずです。
 まさかに単なるカッコつけで町奉行所じゃなくて火付盗賊改方にした訳ではないでしょうが、八丁堀と呼ばせて岡っ引き(……与助は岡っ引きより更に一段下の下っ引きに見えるんですが)を部下に添えたいなら素直に町方同心じゃいけなかったのかなぁ?と思うのです。管轄の広さも町奉行所と火盗じゃそう差は無かったはずですし。
 ついでに細かい事まで言えば火付盗賊改方は火を付けた人を取り締まるのであって火の管理をする役所ではなく(多分)、加役という性質柄無くして首が飛ぶような官給の十手は持ってません。私物です。(町方同心も万一の紛失を考えて官品の他に普段使いの私物を持っているはずです)
 それに火事と言えば陽13話ですが、火事の時に耐火性の高い倉から、いつ火の手が回るか判らずどこで何を無くすかもわからない邸外へ、見ず知らずの他人を入れて、わざわざ財産を運び出すでしょうか。その警護に火付盗賊改方を使うという理由も解りません。
 細かい事かもしれません。私が大人気なく癇性なのかもしれません。それでも辛かったものは辛いのです。御厨を中心に据えた話を書くのなら消防も含めた江戸の治安組織についてせめて、最低限の下調べはして欲しかったというのは出過ぎた意見でしょうか。調べないなら素人に時代考証なんてかけらも思い出さない程、自己流のシナリオに組んで欲しかったと。
 あと、歴史上の人物を出す時に、シナリオ中そうであったはずの年令と残された写真の年令の誤差を考えていますか、というのも些か疑問ですし、言行録の類から台詞の一部を引用するなら使う場所と表現をもう少し細かく見て頂きたい。利口と怜悧って似たようでイメージのプラスマイナス違います、よね?
 キツめにまとめれば生半可な知識で知ったかぶりされると辛い、という事です。

 全体に、作った人が時代劇が好きじゃないんだな、という印象を受けました。それなら、妙に時代劇のお約束や、断片的な史実をこせこせ入れるより伝奇の立場を貫いて頂きたかったです。
 誰が『八犬伝』の歴史考証をしますか?誰が『魔界転生』の現実性を追求します?
 魔人学園の続編、というものにそういうエネルギーとスケールを、ファンとして期待してはいけませんか。
 前作『剣風帖』より話のエネルギーもスケールも、確実に小さくなっているように思うのです。前作のもの、例えば学校や人、先生の後付け説明が占める部分が割と大きい所為もあるかもしれません。前作の枠組みでしかできない話が前作以上の規模になるとは考えにくいですから。むしろ後から説明という名の型を入れる事で、前作の世界を狭めているような気すらします。

 ところでコーエー版の『剣風帖』の攻略本、巻末に監督のインタヴューが載っています。伝奇としてもジュヴナイルとしても半端な作りじゃだめだと。自分でこのゲームはつまらないなと思いながら作ったゲームはいい作品にならないと、仰られている箇所があります。

 だから何だと言う事ですが、『外法帖』はその延長にあるはず、ですね?

 外法帖、好きな部分もたくさんあるだけに、とてもとても残念だと言いたいだけです。
 あの設定で、あれだけの登場人物を使うならもっと面白い話ができたのではないかと思うと、勿体無いだけです。
 本当はまだちょこちょこひっかかるとこはあちこちあるんですが、もう十二分に長くなってしまったのでこの辺で。
 読んで頂いて有り難うございました。

 参考文献:『十手・捕縄字典』『間違いだらけの時代劇』(名和弓雄)『風俗江戸東京物語』(岡本綺堂)『氷川清話』(勝海舟)ほか。
(03/03/15)