「サニーちゃんとパパ」
※最初に注意
「衝撃のアルベルト」がひたすら親バカだったら、という発想からできた2次創作です。ダメベルト全然オッケーの人だけ読んでね。



その1:
 珠のような、という形容詞がぴったりくる程、可愛らしい赤子であった。
 亜麻色の髪、澄み切った丸い瞳を縁取る長い睫毛、ふっくらとした手足。彼女を見たものは例外無くその愛らしさに口元をほころばせるであろう。
 況してや、その両親であれば尚更だ。
 ただいまと帰るなり赤ん坊のところへすっ飛んで行って、嬉しそうにあやしている姿を見れば、その父親がBF団の幹部「十傑集」のひとり「衝撃のアルベルト」であるとはわからないだろう。
 わからないだろうと思われる程に、彼は娘に夢中だった。
「おお、しばらく見ない内に大きくなったようだな。元気にしておったかサニー、ん?」
 と頬を突つく位はともかく、
「そうでちゅかー、パパも会えて嬉ちいでちゅよー」
 などとやっているとは想像できるはずもない。
 招集の連絡をする為とは言え、うっかりその場へ踏み込んでしまったセルバンテスは、自分の行動を激しく後悔していた。
 ゆっくりと、アルベルトが振り返る。その目が剣呑に光るのを、セルバンテスは確かに見た。そして静かに赤子をゆりかごに戻したアルベルトは、向き直って一歩前に出る。その足下に衝撃波が円を描き、同時に空気が圧力を増す。
「ちょっ……ちょっと待て衝撃の!」
「問答無用ぉ!」
 その後。私闘で招集に遅れたと咎められ、家へ帰ればしょうもない理由で壁を壊したとなじられ、踏んだり蹴ったりの目に遭うアルベルトだが。
「人の部屋に入るときはノック位しろというのがわからんかー!」
 セルバンテスを追いかけて回している彼は、そのことを勿論知らない。


その2:
「ふふん」
 アルベルトが笑う視線の先、戴宗がにやりと笑う。
「また貴様か、小僧」
「その言葉そのまま返すぜ、おっさん」
 にぃ、と口元を歪めた次の瞬間から、双方の気が目に見えて高まっていく。さぁ、いざ戦いが始まろうかという、その瞬間にアルベルトが急に表情を変えた。
「5分待て戴宗!」
 怒鳴るが早いか、アルベルトは背を向けて駆け出した。驚いたのは戴宗である。
「ちょっ……待てよおっさん!何だよオイ!」
 一歩遅れて戴宗はアルベルトを追う。建物の屋根や壁を飛びながら街区を数ブロック向こうまで行って、また戻る。ふと視界からアルベルトが消え、戴宗は慌てて辺りを見渡した。
「どこへ行きやがった……?」
 戴宗が疑問を抱えながら屋根を歩き始めた時だ。下の方から耳慣れた声を聞いた気がした。
「どうしたサニー、パパはお仕事だから車で待ってなさいと言っただろう」
 戴宗は耳を疑った。
「パパ……?」
 恐る恐る覗き込むと、アルベルトがしゃがみ込んで泣きじゃくる小さな女の子の頭を撫でてやっている。
 戴宗は黙って下へ飛び降りた。その気配を察し、アルベルトが険しい顔で振り返る。
「5分待てと言っているだろう戴宗」
「や……そりゃいいけどよ。おっさんの、子供?」
 まだ幼い、学齢前の子供に見えた。亜麻色の髪を結い上げ、品のいいワンピースを着ている。
「それがどうした」
「似てねぇなあ。可愛いじゃないか」
「やかましい!」
 その時、アルベルトの後ろで戴宗を見上げていた女の子が、子供らしい足取りで前へ進み出た。スカートの裾をつまみ、膝を軽く曲げて頭を下げる。
「はじめまして、おじさま。サニーといいます」
「あ、あぁ……はじめ、まして」
 呑まれるように返してから、戴宗は呟いた。
「おじさま……」
 戴宗はまだ20代である。おじさん呼ばわりされるのはちょっと切ないお年頃。
「挨拶なんぞせんでいい相手だが、いい子だサニー。よく出来た。」
 アルベルトはサニーを褒めてから、抱き上げた。
「さ、迷子にならないようパパが車まで送っていくから。今度はいい子で待っているんだぞ」
 こくりと頷くサニーに満足げに応え、アルベルトは戴宗を振り返る。
「そう言う訳だ、2分待て」
 戴宗ははぁ、とため息をついた。気が抜けると言うか、どっと疲れた気がするのは何故だろう。
「いいから今日は娘連れてとっとと帰れよおっさん」
 今更、戦う気が起きるものか。がっくり肩を落とし、戴宗はため息混じりに親子の背を見送った。父親の肩越しにサニーが小さく手を振る。父親が父親だけに、やがては少女もBF団のエージェントになるのかもしれないが。戴宗は手を振り返してやりながら、少女の幸せを祈った。


その3:
「今後、サニーを預かってはもらえまいか」
 アルベルトは神妙な面持ちで樊瑞に言った。
「訳を聞こう」
 樊瑞は即答を避けた。サニーはアルベルトの愛娘である。樊瑞に預ける、即ち自分の手元から彼女を手放すとは思えない。
「あれの母親が死んでからというもの、家の中が手薄でな。わしが留守の間、娘を1人にしておくのがどうも心配でならん」
 サニーはまだ幼い。日々世界を駆け巡るアルベルトの任務を思えばもっともな心配であった。
 普通の家庭でもそうであろう、況してアルベルトはBF団の幹部である。十傑集の自宅は秘中の秘だが、万一国際警察機構にでも見つかれば身の上の危険は避けられない。
 これに対し、樊瑞は十傑集のリーダーであり、アルベルトに比べれば家を空けることは少ない。
 樊瑞は頷いた。
「わかった、引き受けよう」
「ありがたい。御主のところなら安心だ」
 アルベルトは僅かに目元を和らげ、葉巻に火をつける。
「御主が後見なら悪い虫もつくまい。美人になるのは保証するが、どうか優しくて賢く気品があって強い魔法使いに育ててやってくれまいか。そうなる素質はあると思う」
 当然のことのように言うアルベルトに、樊瑞は呆れた。
「サニーはまだ10才にもなっていないだろうに」
「だから御主に頼んでおる」
 10才にもなっていない娘に将来言い寄る男を心配し、その才能の程も信じて疑わない。
 親バカ。
 そのひと言を言うべきか迷った樊瑞に、アルベルトはいぶかしむように眉を寄せる。
「嫁にはやらんぞ」
「誰もそんなことは言っておらん」
 樊瑞は将来の不安を感じ、額に手を当てた。


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 その1からその3まで。長ェよ!と自分にツッコミ。
 その2だけちょっと浮き気味ですが、どうせなら戴宗も書きたかったんで。まだ独身だといい。そんでなんとなく後のヨメのことでも考えちゃったらいい。
 BF団親子は、パーパー、どこぉーという泣き声すらテレパシーだとよい。「死んだ振りと言う恥知らずな真似」の間はおとっつぁんの応答が留守番電話だともっとよい。
 アルベルトが大好きです。(07/07/02)

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