062:『オレンジ色の猫』 猫にとっては、いつもの巡回路を通っていたに過ぎなかった。 殺風景な湾岸地帯の一角、小さな建物。年齢は様々だがオレンジ色の制服を着たごつい男が沢山いる。運が悪ければつまみ出されるが、大抵は何がしかの食物をもらうことができ、適当に遊んでももらえる。 いつものように車の横を抜けて、建物に近づく。 どうも様子がおかしいな、と猫は歩く速度を落とした。いつもより空気が張りつめている気がする。 それでも慌ただしい様子は無いので、猫は裏手へ回る。 オレンジ色じゃない服を着ているおっさんがいて、猫を構ってくれるのが常だから。 「あ。ジーコ」 呼び止められて、猫は顔を上げた。 「こがぁなトコうろちょろせんとき」 慣れた手つきで首根っこを掴まれて、猫は大人しくぶら下がる。 「基地長が変わったけぇのう。今度の基地長は厳しい人じゃけえ、お前と遊んではくれんじゃろう」 「にゃー」 「お前にわかるかわからんがの、しばらくは来んほうがえぇ」 猫の頭をひと撫でして、男は足早に建物の方へ帰っていった。 男が建物の中に入るのを見届けて、猫はもう1度建物の方へ歩き出した。 建物の裏へ回り、いつもの部屋の窓から中を覗く。 猫に気付いた髭の男が困ったような顔をした。いつものおっさんはおらず、猫の知らない男がいる。 あぁ、そうなのか。 猫は納得した。この建物にいる男達の顔ぶれが変わるように、あのおっさんもどこかへ行ってしまったのか。 顔見知りの髭男に向けて声を出さずに鳴いてから、猫は窓枠から飛び降りた。 −−−−−−−−− 「オレンジ色の猫」と言うより「オレンジと猫』……。 つまみ出すのは大羽のつもりですが、広島弁の自信がありません。(07/06/22) ※本誌で奥村基地長転任の直後にジーコどうするの基地長ー!と言う勢いで書いたものです。多分、あれは連れて行きましたね小樽まで。そんな訳で多少状況に食い違いが出てますが、これはまあこのままで。 Pro.100txt. |