026:『The World』

 縄張りから上がってくるものは、金だけではない。
 情報、ことに縄張りを侵すような海賊の出現情報は速やかに白ひげの元へもたらされる。そもそも縄張りからの冥加金は、安全の為に支払われているものであるからだ。
「ん、間違いねぇ。こいつだ」
 双眼鏡を覗き、マルコはぱしりと手配書を叩いた。
「新世界」へ上がってきたばかり、船長の賞金額は1億にはやや足りない9,600万ベリー。
「信号送れよい。『ここは白ひげの縄張りなり。積荷の半分を置いて去れば手出しはしない』」
 マルコの指令で信号手が走っていく。
「さて、どう返して来るか見物だよい」
「警告無しに叩いちまってもいいんじゃねェか?」
 首を傾げるエースに、マルコはにやりと笑う。
「ま、積荷満載で『新世界』へ入って来るようじゃ知れてると思うがなァ。万一の保険さ」
 マルコは相手の船を指差す。今2人が乗る船よりも、ふた周り程大きい立派な船である。
「あの船のサイズで、喫水線があの位置って事ァ積荷は結構な量になるだろ?」
「うん」
「半分素直に渡されたら、この船で追いつくのは無理だろうよい」
 あぁ、とエースは頷く。
「だから大人しく半分渡して下がるような奴だったら、意外と頭ァ回る奴だと思った方がいいんだよい」
「差し出された積荷が危ねえってこともあるもんなぁ。出すもん選ぶのはあっちだし」
「そういうことだよい。逆に向かってくる奴や──」
 言っている間に目標の動きが慌ただしくなる。帆を張り、舵を切る意図はわかりやすい。
「あぁやって逃げ切れると思うような奴は、ネギ背負った鴨だよい」
 マルコは眉ひとつ動かさずに言い切ると、船員を振り返って笑う。
「さぁ行くぜお前ェら!あの田舎者にこの海の常識を教えてやらねえとな!」
 船の運航を左右する風向き、海底の岩礁、潮の流れ。
 それを把握している船で、しかも追跡に有利な場所で待ち伏せている。そんな地の利を生かした敵相手に逃げ切れる筈がないのである。
「取舵20、舷側へ回り込め。当たらねえよう気ぃ付けろよい!」
 マルコは舵手に指示を出す。幅寄せしてくるのに当たってしまえば、当然こちらが不利であるからだ。勝負はほんの一瞬、足を止められるかどうかで決まる。
「砲手、準備できてんだろうなァ」
「いつでも、マルコ隊長」
「よし、合図で斉射。『楽園』育ちの太った鴨に腹一杯食わせてやれ!」
「了解!」
 響く轟音は、向こうが撃ってきた大砲の音である。刻々と変わる距離の憶測が悪いのだろう、こちらの船を直撃する角度では飛んで来ない。船尾を掠めそうになった弾は、エースが軽々と弾き飛ばした。
「撃て!」
 マルコの声で砲門が一斉に火を噴く。白ひげ海賊団の砲手からすれば目をつぶっていても当たる距離であった。更に距離を詰めつつ、再度斉射。大きく速度を落とした相手に、注意深く船をすり寄らせていく。
 そろそろか。マルコは距離と速度を目で測りながらそう思った。
「各員交戦準備。行ける奴から向こうへ渡れ。──エース。」
 振り向いて、マルコは悪戯をけしかけるように口元を引き上げる。
「遊んで来るといいよい」
 物騒な笑顔で応じると、エースは軽い様子で敵船へ向かって飛び上がる。
 すぐに派手な火柱が上がった。

 Welcome to The New World!
 新人諸君、ようこそ「新世界」──この世で一番破天荒な海へ。




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 ちょ、ちょっと「新世界」で「The World」と主張するのは苦しかったかな……。でも書きたかったの、なんちゃって船バトル及び日常業務オブ白ひげ海賊団。
 帆船の速度感覚が掴めないけど、外輪船があるんだからエンジン付きでもありなのかなー。戦闘方法も1対1だからイメージだけで書いちゃったけど、艦隊戦になるとさっぱりです。そこら辺勉強して再チャレンジしたいなぁ。(10/12/21)

Pro.100txt.