025:『のどあめ』 ひょうたん湖殺人事件、そしてDL6号事件の劇的な解決の後、成歩堂と御剣は戦っていた。 片や、駆け出しの新米弁護士。片や、まだまだ若手の国家公務員。 要は、2人揃って金がない。 「これくらい払ってくれたっていいじゃないかケチ!」 「関係のない費用まで付け足すなと言っているんだこのシロウトがぁ!」 何時間経っているのか、いい加減時間の感覚が麻痺していた。真宵がいれば、傍観に飽きた所で仲裁に入ってくれたであろう。しかし修行の為に彼女が事務所を去った今、止める者もないまま折衝は続く。 終業時から始発の時間まで続く折衝も今日で3日目。これで昼はお互い自分の仕事をしているのだからいい加減タフだ。 「とにかく、請求書の再度書き直しを要求する!」 ばん、と御剣の手が机を叩く。法廷以上かもしれない迫力を持つその御剣を、成歩堂はひるまず見据えて、口を開く。 「御剣の、すけべ」 「……何?」 予想外の文句に、御剣は眉をひそめた。成歩堂の上目遣いは心無しか、恨めしげだ。 「真宵ちゃんの保釈金は払ってたじゃないか。」 「だからと言って」 ここで引いたら負けだ。御剣は成歩堂の寄越した請求書に目を通した時の頭痛を思い出し、息を吸った。 「自宅の家賃まで経費に入れるバカがどこにいる!」 「必要経費じゃないか!」 「それは貴様のであって私のではない!却下だ!」 「けちー!御剣のけちー」 どれだけ疲れようと言語が小学生のレベルになろうと食い下がる成歩堂、その根性いっそ見事。 「常識の範囲内で話をしている!」 極度の疲労で目の座った相手に常識を問う御剣、ある意味勇者。案の定、成歩堂はびし、と指をつきつけて声を張る。 「常識なんて不確かな言葉で、人を説得できると思う方が間違いだ!」 「訳の分からんことを言って誤魔化そうとするんじゃないッ!」 束の間の沈黙が事務所を包んだ。新聞配達のバイクの音が遠くに響く。 「じゃぁ……っ」 何か言いかけた成歩堂が咳き込んだ。夜っぴて大声張り上げていればそりゃぁ喉も嗄れる。御剣はポケットを探り、ここ数日ですっかり馴染みになったのど飴を取り出した。成歩堂にひとつ放り、自分の口にも1個入れる。10分間の休廷、と言う言葉が2人の頭を掠めた。 「成歩堂」 口の中に飴を入れたまま御剣は本棚にもたれかかった。 「……せめて家賃と打ち上げの費用は外せ。後は折れてやる」 机に懐きながら成歩堂はあーともうーともつかぬ声で唸る。 「それ以上突っ張る気ならこちらは、帳簿の付け方教えた分と机の整理した労働の料金を請求する」 「せこい」 ぼりん、と成歩堂は飴を噛み砕いた。欠片を更にかじって成歩堂は御剣を見上げる。 「んじゃもいっこ頂戴って言ったらその分もつくのかな?」 「当然だな」 「うー……」 恨めしそうに御剣を見上げる様子は真宵と大差ない。 「食った飴の数まで微に入り細に入りリストアップされるのと、ここで折れるのとどっちがいい」 「うー……」 かじった欠片を飲み込んで、成歩堂は顔を上げた。 「わかった。外すからも1個頂戴」 「よし」 のど飴のやけに爽やかな味が疲れ果てた喉にしみた。 −−−−−−−−−
書きたかったもの。お前ら一体いくつだという低レベルの言い争い。 わざわざ書かないとわかんないじゃないかよう……。(敗北感)という初めての逆転裁判ネタでした。 成歩堂の事務処理って微妙に丼勘定な気がするんだもの。そんで御剣はまた細かい計算が合ってないと気持ち悪がりそうかなぁと……。 成歩堂の魅力は Pro.100txt. |