「ヘイ、パパジョン、うるさいんだけどもう少し、小声で話してくれませんか」ベットル
ームの下でパパジョンの声が毎夜大きい。ジョン・ベサック60才、ギョロッとした目に
口髭、厚い胸板、元教師。今はリタイアして日中は、ワイン店の店番のアルバイトをして
いる。「孫には、パパを付けてパパジョンと呼ばせているのよ」奥さんのジネが説明す
る。村の中は、住居が接近しているので声がよく跳ね返って聞こえる。彼の家は玄関先に
猫の額程のテラスを作って、夏は夕食後雑談するのが日課になっている。今夜は娘のドミ
ニック達がパリから、里帰りしているのでよけい会話に力が入る。一度旅行に行くので熱
帯魚や猫の世話を頼まれたことがある。その時は、気分転換もあってベサック宅に泊まり
込んだ。絵が好きで玄関から部屋中、キース・ヴァン・ドーゲンや色々な作家のリトが飾
ってあった。「これが100年前から続くプロヴァンスの住居か 、鰻の寝床風の間取りで
窓が少ない、随分暗らいな」と言うのが印象だった。