43. etc.              出光 隆


   思いつくままに2・3書く。   「5年目」 私が当教室に来てから丸4年過ぎ,5年目に入っている。もともと,先生になる気など毛頭なかったから,こちらから声がかかった時,全然自信がなくその気になれなかった。それがどう気が変わったのか思い返してもはっきりしない。ただ,決心したとき頑張ろうと思った。そして,5年経ってやっぱり自信がなかったら,その時,また身の振り方を考えなおそうと思った。その5年目にすでに入った。過去4年,自分のやって来た研究,教育ともに満足なものではない。それなのに,その4年間に結婚し,子供までももうけた。もはや,身軽に世の中を渡り歩くことができなくなっている。己の考え方が一貫していない事を責められても一言もない。それでも救いはある。年を重ねる毎に,卒業生,学生が仕事上の相談,一身上の相談等を持ちこみ,真に頼りにならない私を頼りにしてくれる。最近では自分なりに何とかやって行けそうだと,わずかながら自信めいたものを感じている。   「河中拾二生魚一」 これは中国の字義ではない。今年あった話だ。初夏の頃,うちの研究室で紫川に釣りに行った。初めから,釣れないだろうとは思いたくない。釣れることにして魚を焼く金網まで持って行ったような気がする。 朝いつもより早く起きて勇んで出かけた。徳力あたりまで行き格好な場所を見つけ釣り始めた。いやそれは人のことで,私は始めようとした時,川の中で仰向けにひっくりかえってしまった。6月初旬であったから泳ぐにはまだ寒かった。皆んな大口を開けて笑い誰一人,同情してくれる者はなかった。まったく,今思い出してもいまいましい。 一日中釣って,釣果は(13+α)匹。私一人だけの分ではない。7人全員で(13+α)匹である。何しろ,ろくな太公望はいないのだから……… 魚にえさばかりとられバカにされる者,糸を他人のにひっかけ釣の時間よりほどく時間の方が長い者,昼めしの心配ばかりしてろくろく釣りもしない者,それに川の中でひっくりかえる者,等。 ところで+αは何かと不審に思われる向きもあろうから説明する。+αはえさではない。W君が釣れもしないのに,やたらにヒューヒュー竿を振り廻したものだからウキが飛んでしまった。道具入れをさがしてもウキがない。少々あきらめ加減の所,上流からウキが流れて来た。シメタと思い拾い上げたら糸がついていた。糸をたぐったらオモリもついていた。更にたぐったら鉤もついており,おまけに鉤の先に魚までついていた。河の中で生きた魚を拾った話は,はじめてだった。  「学長呼び出し」 先日,Y君へ,学長から呼び出しがかかった,と連絡があった。Y君は驚いて学長室へと飛んで行った。ところがこれが偽の呼び出しで,茶目っ気を出してウソをついたM君は青くなった。まさか,本気にしてのこのこ学長室まで出かけるとは思わなかったのだが……… 不幸にも学長は在室されていた。 「開発土木のYです。呼び出しをうけたんですが………。」 「呼び出し?覚えがないな。ウーム,思い出さんな? 君,就職どこですか?」 「A社です」 「A社ねェ,ウーム,やっぱり思い出さん。では思い出した時又呼ぶから,呼ばなかったら,まちがいと思ってくれ」 「ハイ」 この話をT先生にしたら 「今どきそんな正直な学生がいますか。へえ,理屈っぽい学生が多い中でなかなか,すがすがしい話ですね」との感想,私も同感。

目次に戻る