35. 無題                吉川寿重


   ある日曜日一人で行くあてもなく町へ出かけた。 何を求めて。ガールハントの為に,パチンコ屋のけん喧嘩と退廃的雰囲気に身をまかせに,それとも雑踏の中にうもれて自分自身の存在を確かめたい為にだろうか……?  ターミナルの近くで共産党のアジ演説,そして隣りでは右翼の数人がビラくばり,そして少し離れた所では水俣病などの公害告発の署名運動。どうしたわけか笑いがこぼれた。そしてすぐにうつむきかげんに通り過ぎる。彼らの真剣な表情を横目で見ながら。  町にはいろんな人種がいる。不安と苛立ちをおさえて待ち人を待っているもの,資本主義繁栄の為にせっせとShoppingに向かうもの,意識してかせずか体制にはみでようとはかない抵抗を試みるヒッピー,そして昨晩飲みすぎたのか路上のすみでうずくまるようにして寝入っている酔っぱらい。家庭,会社を忘れて,それとも忘れようとするものも無いだろうか。まあどうでもいいことさ。  最近は女性を見るのが楽しい。マキシ,ミニ,ミディ,パンタロン,いろんな服装をして町を行く。せいいっぱいオシャレしている女性を見るといわゆるブスでもいじらしくかわいくてしかたがない。近寄ってキスでもしたくなる。 町はつかみどころのない混沌としたものが混在している。確かに楽しい。しかし不安だ。今にも壊れそうで。

目次に戻る