17. ある恋の終焉            時任正人


   あーあ,何もやる事がないなあ。就職が決まってから一週間も経ったし。しかし。月日の経つのって早いもんだな。東京で試験を受けたのがきのうのことのように思われるけどな。あーあ,何か刺激がほしいなあ。  「正人さん。ちょっとお話があるのですが。」「なんですか。そんなにあらたまって。」「実は御存知だとは思いますが,K・Tさんね。あなたと交際したいそうなの。」「K・Tさんなら知ってますけど,以前2,3度見かけただけですよ。交際なんて,結局見合いみたいなものですか?」「ええ,先方の御両親もあなたの事を気に入られてね。」「冗談じゃないですよ気に入るなんて。僕にはそんな気は全くありませんから断って下さい。」 全く冗談じゃないってんだ。弱冠23才の学生に見合いしろなんて。それに俺にはK・Yさんという可愛い女の子がいるんだぞ。でも待てよ。見合いなんて話がくることだし,俺はもう結婚を考えてもよいという事かな。求婚か。フフフ………。こっけいになるな。でも何が必要なのかな婚約するってことは。彼女は8月生まれだから,誕生石はメノウかな。いやいや待て。その前に当の本人が「うん」と言ってくれるかなあ。いやそれよりもオヤジとオフクロが許してくれるかなあ。彼女の御両親は俺のことをどう思っているのかなあ。しかし,よく考えて見れば,結婚という言葉が素直に彼女と結びついたんだから何も問題ないじゃないか。求婚すべきだよ。回りの人がどういおうと関係ないじゃないか。要は俺がそう思っていることだし。 もう8月28日か。彼女と会う日だったな。きょう話してみるか。気持を整理して出かけるか。 「Kさん。必ず迎えに来るから3年間待っていてほしい。」「えっ………。うれしいわ。でも返事はしばらく待って。」「いつまで?僕自身の気持ちは変わらないよ。」「ありがとう………。」 僕もよくあんなことが言えたなあ。テレビのドラマじゃしどろもどろ言うことになってるけど,言うとなったら案外簡単なものだな。しかし何て返事をくれるのかなあ。あれもう9月10日か。彼女はきょう返事すると言ってたっけ。 「ところで。」「だめですわ。私にもいろいろと事情があるんですもの。」 何てことだ。3年間も交際を続けてきたというのに。この3年間,精一杯貴女を愛し,精一杯貴女に尽くし,精一杯貴女のために努力してきたのに。ああ!お嬢さん。この愛を,この努力を,そしてこの心を認めて下さい。今この僕の心の中には貴女一人しかいないのです。その貴女がこの心の中から出て行くとは。空虚,孤独,死。ああ,死にたい!このままこの苦しみの中で生きてゆかねばならないのなら。お嬢さん。No!と言うくらいなら,一服の毒を盛ってくれた方が,僕は貴女にどれ程感謝したことか。   やるせなく    飲みほす酒にも     甲斐はなし   ずるずる生きる    この身は絶えたり   (愚作) 苦し過ぎる。えーいもう考えるのはやめた。 あーあ,もう12月か。それにしても何故こんなに空しいのかなあ。誰かと交際でもしてみるかな。Y・Tか。こいつはK女子大のワンゲル部員だし少々憚 るな。S・Sか。こいつはあまりにもガキ過ぎるな。T・Nか。こいつは少々遠すぎるな。J・Wか。こいつがいい。人間も出来てる様だし。J・Wに決めた。 『前略。 突然お便りなどして驚かれたことでしょう…………

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