東伏見公園

 東伏見稲荷神社の北東側に接して東伏見公園がある。一辺約100mの四角い公園で、かなり背丈の高い樹木が何本かある(そのうちの一つはけやき?かもしれない)が、それ以外は小さなグラウンドといった感じである。公園の南西部の地面はなぜか盛り上がっていて、小山になっている。隣に東伏見稲荷という大きな神社があるので、あるいは江戸時代の富士山信仰の名残かもしれないが、説明はどこにもなかった。

 自分自身の樹木の数は少ないのだが、稲荷神社の林に隣接しているため、緑の豊富な公園である錯覚を受ける。こういった背景を巧みに使った、だまし絵的公園は、保谷には結構多いように思う。住吉森林公園などはその典型例だろう。限られた予算の中で最大限の効果を生み出す、高度な公園建設テクニックと評価したい。

 公園の北側は金網を隔てて普通の二階建て民家に接している。この金網の塀には、「伝言板」と書かれたベニヤ板が針金でくくりつけられていた。この板には、何かワニのような動物をはじめ、いくつかの絵がクレヨンで書かれている。これらの絵が誰に何を伝えているのか分からなかったが、素材の選び方といい、配色といい、一見殴り描いたようにみえる大胆なクレヨンさばきといい、その芸術性はなかなかにあなどれない。

 公園内には、座れるテーブルといった風な、低い四角のベンチが三台ほど配置されている。座って横に荷物を置くことも出来るし、ジュースなんかを飲む場合も、床が平らなので便利である。ちょっとしたアイデアだが、公園設計者の気配りが胸にしみる逸品である。

 稲荷神社の林の木々がのしかかるように迫っているためか、あるいはテーブル風のの腰掛けのためか、この公園は、遠足などで細い林道を何時間も歩き回った末にたどり着く、峠のちょっとした広場を連想させる。ちょうど先生が「ここでお昼にしましょう。」と待望の言葉を言ってくれそうな雰囲気があふれている。そのせいか、この公園に入ると無性に弁当を食べたくなる。のりがしんなりと張り付いた、冷え切ったおにぎりをほうばりながら、ちょっと甘めの卵焼きをつまんでみたい、そんな衝動に駆られてしまう。

 東伏見公園は、何か懐かしい気持ちを呼び起こさせてくれて、ホッとした気分になる不思議な空間である。遠出の散歩などで、随分歩き回った後に、ぜひ出てきて欲しい公園である。荷物を下ろして、足を休めて、木の葉の間から青空を眺めていると、すーっと疲れがとれていくように思う。

96年11月


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<ひばりが丘通信>