東伏見森林公園

 西武新宿線東伏見駅の南口から、早大グラウンド通りを数分歩くと、石神井川に架かる橋に出る。この橋のすぐ脇に石神井川の土手に昇る階段があって、それを上がるとちょっとした林に出る。それが東伏見森林公園である。

 2m程度の比較的背丈の低い木々が集まって小さな林になっている。中へ入ってみると、秋の色づいた葉が黄色や赤のひさしを作っていて、ところどころから鳥のさえずりが聞こえてくる。なにより素晴らしいのは、これは保谷の多くの公園に共通していることだが、ほとんど人がいないことだ。私が行ったときも、休みの日というのに、小学生くらいの女の子二人組がしゃがみこんで、なにやら小さな草を眺めているほかは誰もいなかった。完全な独り占めである。

 梢の隙間にのぞく青空を眺めて物思いに耽るのもよし、スケッチブック片手に絵を描いてついでに詩なんかつけてメルヘンに浸るもよし、あるいはピーターラビットの秘密の隠れ家を探すもよし(ちょっと怖いぞ)。思う存分自分の世界に浸りきることが可能である。

 ところでこの公園は、以前からの林を利用したというより、新しく木を植えて作ったように見える。林の部分は盛り土がしてあって、周囲の土地よりも少し高くなっているし、木そのものも、どれも同じ位の若い樹齢に見える。最初にこの林を見たときは、農家の果樹園かなんかかと思って、入るのをためらったほどである。公園内にベンチもテーブルも置いていないのは、この林の持つ人工的な雰囲気を少しでも和らげて、昔ながらの武蔵野の面影のある「森林公園」にしたいという配慮の現れかもしれない。

 そういえば、林の端に置いてある「東伏見森林公園」の看板も、木の棒を土に突き刺しただけの簡単なもので、横に傾いて倒れそうだった。これも自然な雰囲気を持たせるための小粋な計らいだろう。

 公園は石神井川の土手にあるのだが、激しい絶壁になっていて、川底までの高さも結構なものである。大雨なんかがあると、土砂崩れが起こりそうな雰囲気である。ここを森林公園にしたのも、植林して、土手を補強するのが一番の目的なのかもしれない。

 石神井川自体は、川底がコンクリートで固められ、側面も板張りになっている。その上、太い鉄骨が1-2m間隔で川の両岸に渡されている。都が、緑道を作ることを計画してるらしい。昔は、川辺にいろいろな生き物が住んでいて、子供がザリガニを採ったりしたのだろう。それを考えると、今の石神井川の姿には「痛々しさ」を感じてしまう。こういうのは、大都会の暮らしを骨の髄まで享受している人間の甘ったれたセンチメンタリズムに過ぎないんだろうか。

 倒れかかった「東伏見森林公園」の看板の向こうに、早稲田のグラウンドが望める。グラウンドの端には黄色く色づいた立派な銀杏の木がそびえ立っていた。この圧倒的な迫力の大木は、目の前の川と公園の変遷を眺めながら、何を思っているのだろう。

96年11月26日


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<ひばりが丘通信>