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氷河期の落とし子−ウスバキチョウ

 6月の高山帯はときおり吹雪に襲われることもありますが、尾根の雪の消えはじめた礫地帯にミネズオウやイワウメなどの高山植物が咲きはじめると、淡黄色の羽に赤紋をもつウスバキチョウがどこからともなく現れてきます。 ウスバキチョウは高山植物の女王と呼ばれているコマクサを唯一の食草としているので、コマクサの生育する風衝地、礫原地のような環境条件でよく観察されます。黒岳山頂から石室へ向かう尾根、雲ノ平、北海岳〜小泉岳〜赤岳、そして最も代表的な観察地はコマクサ平です。 母蝶は食草に直接に産卵することはほとんどなく、(コマクサは秋に枯れてしまう。)コマクサ近くの石の裏側にひとつづつ産みつけていきます。1年目はまずこの卵の状態で冬を越します。そして春にふ化した幼虫はコマクサを食べて成長します。ときおり人間がいたずらしたかのようにコマクサの花冠が散らかっていることがありますが、これは幼虫の仕わざです。姿の見えない時はたいてい石下に隠れています。秋が近づくと、終齢幼虫は背たけの低いヒースなどの茂みに潜りこみ繭を作って蛹となり、2年目の冬を越します。やがて3年目、再び新しい蝶となって羽化してくるのです。 ウスバキチョウは大雪山を代表する氷河期の落し子でしょう。   (保田 信紀)


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