エスニック

雪辺の昆虫社会



大雪山の広大な高山帯に美しいコントラストをつけているのは多くの残雪紋様です。夏の進行とともにこうした雪渓や雪田のほとりでは、多彩な花々の競演がみられます。雪尻を追うようにエゾコザクラはピンクの絨毯を一面に広げていきますが、こうした環境の所は、高山の昆虫群集にとって最も安全で好適な条件をもつ生息地のひとつです。高山性昆虫の多くは好湿性で狭低温性といった特微を持っていますが、広大な氷雪帯をもつヒマラヤのような高山では、氷河や残雪の表面ですら真の住人の興味ある生活が観察されます。けれども大雪山では、多くは上昇気流によって森林限界以下から運ばれてきた昆虫が雪上で凍死しているのがみられる程度です。しかし雪の上を歩いていると、ハエ、ハチ、テントウムシ類などかなりの種類の昆虫を観察することができます。 雪の上には、このような昆虫の遺棄物のほかにも花粉、胞子、種子といった実に膨大な有機物が保存されているのです。そして雪融けとともにこうした有機物を雪尻に残し去っていきますので、雪辺の社会では、雪尻を求めるように、“遺棄物一摂食者一捕食者”といった興味ある昆虫群集の関係が観察されます。        (保田 信紀)


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