豹といっても残虐なハンターではありません。お花畑を快活に飛び回る小妖精といった方がよいかもしれません。アサヒヒョウモンは和名が旭岳に因んでつけられた豹紋蝶のことです。 この蝶が日本で最初に記録されたのは、ウスバキチョウと同じ1926年7月16日のことで、小泉岳で故河野広道博士によって発見されました。本種は大雪山の高山蝶の中でも最も北方色が強く、当時この様な周極種の蝶が大雪山で確認されたことは関係者に大きな驚きを与えました。 成虫は6月中旬から出現し、6月下旬〜7月上旬が最盛期となります。しかし遅くまで雪渓の残るところでは(たとえば黒岳石室〜赤石川周辺のミネズオウやイワウメの咲くお花畑など)8月近くになっても発生しているのが観察できます。産み落とされた卵はその年にふ化します。幼虫は主にキバナシヤクナゲを食して成長し、4齢幼虫で越冬します。そして翌春、5齢幼虫となり、蛹化して、ふたたび羽化がはじまります。 食植物となっているキバナシヤクナゲは道内の高山のいたるところに分布していますが、アサヒヒョウモンの生息地は大雪山の高山帯のみに限られています。これも氷河期の落し子としての本種の強い特性の現われかもしれません。 (保田 信紀)
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