



私たちは多くの自由とともにあり、それを享受できる可能性のもと日々を
送っていると了解しています。その自由という制度の中にあるが故に、
そうではないものに対峙すると非常に不自由を感じるものです。
可能性は限りなく不可能に近いものとして普段となつている事が日常にあるのです。
例えば自分の家を持つ事、これは私たちにとって高いハードルの一つのようです。
心の自由を阻む最後に残った壁というのも、あながち大げさな言い方では
ないのかもしれません。
多くの人にとって家作りは一生に一度、長期のローンをくみ、個人の一大事業として
大きな経済的心的負担を抱えて決行されるものとしてあるからです。
そんな苦労した家が欠陥住宅だったら、目も当てられない。それで人生が台無しに
なったと思いこむ人だっているかもしれない。
いつからこんなことになったのでしょう。家を持つことが人生の壁として
あたかも先験的なものでもあるかのようになったのは。
だからといって一気に跳躍してノマド的生き方をというわけにも行かないでしょう。
ところが、そんな壁など感じることも無く、揺る揺ると自分で家を建ててしまった、
いわば「家たてる人々」がいます。
そこにはハンドメイドの家とともに新しい自由の空間が生起しているのでした。
この本は、そういった人々をわずかなつてやえにしを頼りに
森の中へ、鄙びた海辺へ、高原へ、18ヶ月をかけ訪ね、
お話を伺い、不慣れな取材の結果、書き上げたものです。
本書は、写真集であるとともに、
それぞれの家の個性的な特徴と建築方法を本文で記述し、
巻末には建築用語集を付け、具体的に役立つ実用書としての側面も持っています。
実際にセルフビルドを志す人には勇気とヒントを与えうるものだと
また別荘なんて・・と諦めていた人にも、
この方法なら実現するのでは・・と希望をもたらすものだと思っています。
とはいえ [皆さんも自分で家を建てましょう] と主張しているわけではないのです。
実際に家を建てようと思わなくとも、
「住み場所というものは自らの手でつくることも可能だし、
それを現実化し生活している人々がいる」そのことを知るだけでも、
ある種、閉塞感から気持ちが開け放なたれはしないでしょうか。
例えば鬱々とした気分のときに、
この本を手に取り、どこかのページをそっと開いていただければ
読後にもう一つの自由を
自由という制度の中にいるからこそ感じる不自由というストレスが
フェイドアウトしていくのを感じていただければ
そういう本になっていれば、というようなことを今、考えています。
矢津田
2007年9月10日発売
『セルフビルド 家をつくる自由』
蔵前仁一[編]
矢津田義則+渡邉義孝[著]
A5判/304ページ(4色136ページ) 出版・『旅行人』
定価:本体2200円+税(税込価格2310円)
全国書店、アマゾン等のネット書店でも購入できます。
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2008.2.9(土) 神楽坂建築塾
『セルフビルド・家をつくる自由』
蔵前仁一・矢津田義則・渡邉義孝 鼎談