平 均 賃 金 と は |
(1)平均賃金とは 平均賃金とは、@解雇予告手当(労基法第20条)、A休業手当(労基法第26条)、B年次有給休暇日の賃金(労基法第39条)、C災害補償(療養補償を除く第76条から第82条)、D減給の制裁(労基法第91条)の算定の場合に、その計算の基礎として用いられるもの。これらの手当や補償は、いずれも労働者の生活保障を目的としているため、労働者が通常得ている1日当たりの賃金に近いものとすることが基本となっている。
(2)平均賃金の算定方法 平均賃金は、「平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3か月間(算定期間)にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。」とされている。(労基法第12条第1項)
※算定すべき事由の発生した日 a. 解雇予告手当は、労働者に解雇の予告をした日(S39.6.12 基収第2316号) b. 休業手当は、その休業日。休業が2日以上の期間にわたる場合は、その最初の日 c. 年次有給休暇は、その付与した日。2日以上の期間にわたる場合は、その最初の日 d. 災害補償は、死傷の原因たる事故の発生日または診断によって疾病の発生が確定した日(労基法施行規則第48条) e. 減給の制裁については、制裁の意思表示が労働者に到達した日(S30.7.19 基収第5875号) ※以前3か月間 当該事由が生じた日は、労務の提供が完全にはなされず賃金も全部支払われない場合があるため、平均賃金が実態に即さないことがあることから、事由の発生した日は含まれないものと解されている。よって、当該事由の生じた日の前日から遡った3か月間となる。 ※算定期間 平均賃金は、算定すべき事由の発生した日以前3か月間を算定期間としているが、賃金締切日がある場合は、算定事由発生日の前日からではなく、算定事由発生日の直前の賃金締切日から遡った3か月間が算定期間となる。(労基法第12条第2項) ただし、雇入後3か月に満たない場合については、雇入後の期間とその期間中の賃金の総額で算定することとされている。(労基法第12条第6項)この場合においても、賃金締切日があるときは、直前の賃金締切日から起算する。(S23.4.22 基収第1065号) また、その期間が1か月に満たない場合には、算定事由発生日から算定する。(S27.4.21 基収第1371号) ※賃金の総額 算定期間内に使用者が支払った賃金(労基法第11条に規定する賃金)のすべてが含まれる。また、支払われたとは、労働者が現実に受けた賃金だけでなく、算定事由発生時において受け取ることが確定している賃金も含まれる。 ただし、平均賃金算定期間中に支払われた賃金の総額には、次の賃金は算入しない。(労基法第12条第4項) a. 臨時に支払われた賃金(臨時的、突発的事由に基づいて支払われたもので、結婚祝金、退職金、私傷病手当、加療見舞金など) b. 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等) c. 通貨以外のもので支払われた賃金で一定範囲に属さないもの(実物給与で、法令または労働協約の別段の定めに基づいて支払われる以外のもの) また、平均賃金算定期間中に次の期間がある場合には、その期間及びその期間中の賃金は、算定基礎となる期間及び賃金の総額からそれぞれ控除する。(労基法第12条第3項) a. 業務上の負傷・疾病の療養のために休業した期間 b. 産前産後の女性が労基法第65条の規定により休業した期間 d. 育児・介護休業法により休業した期間 e. 試みの使用期間
※総日数 総日数とは総歴日数をさし、その期間中の労働日数ではない。
賃金が日給制、時間給制などによって定められている場合、勤務日が少なくなってしまったりすると、原則的な計算方法では平均賃金の額が異常に低くなってし
まう場合がある。そこで、労働基準法第12条第1項ただし書1号、同2号において、最低保障額の規定が定められている。 これは、原則的な計算方法により算定した額が、次の計算方法により算定した額に満たないときは、この最低保障額が平均賃金となる。(原則的な計算方法により算出した額と最低保障額の計算方法により算出した額とを比較し、そのどちらか高い方の額) a. 賃金が、労働した日もしくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60
b. 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と
a の金額の合計額
なお、上記の最低保障額は、賃金の一部又は全部が日給制、時間給制又は出来高払制その他請負制によって定められている場合についてのみ規定されたものであり、月給制等については何も規定されていない。 よって、日給月給制(賃金は月決めであるが欠勤日数に応じて賃金が差し引かれる制度)のような場合については、上記の最低保障額は適用されない。(S27.5.10 基収第6054号) したがって、この場合については、次のように最低保障額が定められている。(労基法第12条第8項、S30.5.24 基収第1619号) @ 賃金の一部が、労働した日もしくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60(日給、時間給等の部分)
A 賃金の一部もしくは全部が、月、週その他一定の期間によって定められ、かつ、 その一定期間中の欠勤日数もしくは欠勤時間数に応じて減額された場合に
おいては、欠勤しなかった場合に受けるべき賃金の総額をその期間中の所定労働日数で除した金額の100分の60(日給月給等の部分) B 賃金の一部が月、週その他一定の期間によって定められ、かつ、その一定期間中の欠勤日数又は欠勤時間数に応じて減額されなかった場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額(月給、週給等の部分) ○日給月給制等(賃金は月決めであるが欠勤日数に応じて賃金が差し引かれる)の場合の計算方法
最低保障額 = @ + A + B ※各種の賃金ごとに区分してそれぞれ計算し、その合計額が最低保障額となる。
(4)特例的な算定方法 平均賃金の算定が不可能ないし著しく不適当な場合、次のように取扱うこととされている。 a. 試みの使用期間中に算定事由が生じた場合 試みの使用期間およびその期間中の賃金は、労基法第12条第3項により算定から除外することとされている。 b. 控除期間(労基法第12条第3項第1号から第4号まで)が3か月以上にわたる場合 業務上災害で休業する期間等の控除期間が平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3か月以上にわたる場合は、算定期間および賃金が皆無になるので、この場合は都道府県労働局長の定めるところによる。(労基法施行規則第4条) c. 雇入れ当日の場合 都道府県労働局長の定めるところによる。(労基法施行規則第4条) d. 争議行為のための休業期間がある場合 争議行為の期間及びその期間の賃金は、平均賃金の算定期間及び賃金の総額から控除するものとされている。(S29.3.31 28基収第4240号) e. 算定事由発生日以前3か月以上にわたる私傷病休職や自己都合による欠勤期間がある場合 都道府県労働局長の定めるところによる。(労働省告示第5号S24.4.11) f. 算定事由発生日以前3か月間に私傷病休職や自己都合による欠勤期間がある場合(日給月給制の場合) 原則的な計算方法により算定した額と最低保障額の計算方法により算定した額とを比較し、そのどちらか高い方の額となる。 なお、休業復帰後、すぐに算定事由が生じた場合は、次のような通達が出されている。「私傷病の長期欠勤者が復職して短時日の間に平均賃金を算定すべ
き場合には、出勤以降の賃金及び期間について労働基準法第12条第1項の方法を用いる。」とされている。(S25.12.28 基収第4197号)
(5)日雇労働者についての平均賃金 日雇労働者については、厚生労働大臣がその従事する事業又は職業別に定めることとされている。(労基法第12条第7項) 原則的な計算方法としては、平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前1か月間にその事業場において使用された期間がある場合は、その期間中にその労働者に支払われた賃金の総額を、その事業場で労働した日数で除した金額に100分の73を乗じた額となる。
※この方法によっても算定し得ない場合、都道府県労働局長が決定する。
(6)平均賃金計算における端数の取扱い 1日の平均賃金算定に当たり、銭未満の端数を生じた時はこれを切り捨てるものとされている。(S22.11.5 基発第232号) ○,○○○円 ○ ○ ○ ・・・・ 十銭 銭 厘
→ 小数点第3位を切り捨て 例えば、実際に計算したら、「3,456円8753・・・・」となった場合、この平均賃金は、「3,456円87銭」となる。 また、10日間分の解雇予告手当を支給するとした場合、 3,456円87銭ラ10日=34,568円70銭となるが、この場合の端数の処理については、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第3条で、
「債務の弁済を現金の支払により行う場合において、その支払うべき金額に50銭未満の端数があるとき、又はその支払うべき金額の全額が50銭未満であると きは、その端数金額又は支払うべき金額の全額を切り捨てて計算するものとし、その支払うべき金額に50銭以上1円未満の端数があるとき、又はその支払うべ
き金額の全額が50銭以上1円未満であるときは、その端数金額又は支払うべき金額の全額を1円として計算するものとする。ただし、特約がある場合は、この 限りでない。」と規定されている。 労働基準法においては、この端数処理に関する特約は定められていないことから、円未満の端数は上記により、四捨五入することとなる。 よって、この場合の解雇予告手当額は
、34,569円となる。 なお、災害補償の場合で、労災保険制度から給付を受ける場合、その基礎となるものとして労災保険法では「給付基礎日額」を使っている。この給付基礎日額
は、平均賃金に相当する額となっているが、労災保険法第8条の5項で、「給付基礎日額に1円未満の端数があるときは、これを1円に切り上げるものとす る。」と規定されている。 したがって、いったん平均賃金を計算し、この平均賃金を給付基礎日額に読み替えて、端数処理をすることになる。 例えば、平均賃金が、「3,456円87銭」となった場合、この給付基礎日額は、「3,457円」となる。 <注意!> 平均賃金については、事由によっては、その計算方法が複雑となる場合があり、また、特殊な事案については都道府県労働局長が決定することとなる。 |