ミニノートPC 2002年

◆モバイルが流行語でなくなってから◆

日経モバイル、モバイルi(その前進はMobile PC)といった主力モバイル雑誌が2001年に休刊したのは、雑誌としての使命がほぼ果たせたことが大きいのだろうと推測する(もちろん、それが売り上げなどに影響するから、なのだが)。1990年代後半、モバイル機器を使うことは、PHSや携帯電話を購入し、PCやPDAを購入し、それらの設定方法や接続方法を会得した上で使っていた。慣れればどうってことないのだが、慣れるまでの敷居が高かったようで、戸惑っている人がたくさんいたからこそ、こうした雑誌が繁盛したのだと思う。

iモードを中心としたサイト閲覧とメール送受信を可能にする携帯電話が出てきたあたりで、空気が変わってきたのではないか。接続もずっとスマートになったし(カード型データ通信用PHSも普及した)、携帯電話だけで出来ることも増えた。モバイル機器を持ち歩いて使うということが特別なことでなくなる一方で、範囲が広がりすぎて拡散し、「モバイルは無線通信電話とPCなどの接続」ではなくなった。

また、普通のユーザはメールのやり取りが中心で、それ以上の処理をするために重いPCを持ち歩く人々は少数派になってしまった。1990年代後半から2000年あたりまでの「モバイル」という言葉は、iモードの普及で流行語でなくなった。しかし、普及したというより変質していったのだと考えている。

重く起動に時間がかかるノートPCを使うには、場所を選ぶ。営業職とはいえ、そうそう移動の合間に喫茶店にばかり入るわけにもいかないし、事務職や技術職なら職場のデスクにあるPCで十分。さらに、面倒なデータ管理を、移動の多く忙しい人がちょくちょく行うこと自体が、そもそもナンセンス。結局、携帯電話のメールと通話で連絡をとり、印刷資料を持ち歩きつつ、いざという時にノートPCを使うだけになり、やがてノートPCをデスクにおいていくようになる人もいる。そうやって仕事をしてみれば「意外に携帯電話だけで十分だわ」という話になってしまう。

その一方で、カード型PHSなどを利用して、PDAとノートPCを活用し、紙を最小限に抑える人々もいる。ディープかつ徹底的に活用する層と、そうでもない層との、二極化が進んでいる。

◆2002年に入ってからの変化◆

徹底的に活用する人々がいるのだから、ノートPC相当の製品はまだまだ必要である。多くの場合、こうしたコアユーザがいる製品は、機能や使い勝手が整理されてから再び普及していく可能性が高い。ただ、それが現在のノートPCの形をしているかは別なのだが。

昨年からWindowsXPやWindows2000など、NTカーネルを持つ製品が活用され始めている。さらに、今年に入ってから、軽くバッテリーの持ちがよい製品も続々登場しつつある。昨年出たLibrettoは安さでユーザを惹きつけたし、相変わらずSONYのVAIO C1もそこそこ売れている。カシオのFIVAも値段と機能のバランスがとれてきた。ここへ、松下のLet's Note Lightが加わって、1kg前後のノートが注目されている。このうち、今年に入ってから出た松下や、昨年のカシオは、ディスプレイの縦横比が通常のノートPCに近い。一般のノートPCを縮小した製品であるのがミソ。従来のミニノートは、小さい筐体を前提に取捨選択をしていたが、それを極めて高いレベルで行えるので、本当にサイズの小さなノートPCという印象の製品になってきている。

今ごろになって加速するこの方向は、超低電圧モバイルPentium IIIの普及と、バッテリ制御技術の向上、ボードの実装密度の向上(携帯電話などで日本メーカ各社が培ってきた技術だ)などが相まって実現されている。携帯電話だけで物事を済ませる人々が増える一方で、やはりメールはちゃんとしたキーボードで打ちたい層がいる。1kgを切るノートPCは(ユーザ数は極度に多くはないが)一定の支持があるはずで、そこを外さない製品を開発する力が蓄積されつつある証だ。

さらに現在、電池やディスプレイの進化が進んでいる。同じ容積なら持続時間が5倍近くまで延びる電池、電子ペーパーの開発などだ。液晶ディスプレイもより低消費電力へシフトしている。より軽く、より自然に、という使い勝手の向上につながるこれらの技術は、数年で実用化の域に入る。

もちろん、電池容量が増えても、無線LANが一般化しつつあるから、手放しで「電源フリー!」とはなる日は、すぐには来ないだろう。それでも、軽く小さくなり、面倒な手順なしにインターネット接続が可能になる端末の普及に近づいている。今年は、ミニノートPCやノートPCのカタチが問い直される年だ。

◆SONYの新しいカタチ◆

そこへ、SONYは不思議な製品を出してきた。言うまでもない、キーボード内蔵PDAであるCLIE NR70系と、超小型ノートPC VAIO U1

従来の製品では埋めることの出来ない隙間への製品。高機能なCLIEはPDA徹底活用型の層に向けた製品。PDAも従来のPCも満足できない層に向けたのは、VAIO U1。

特徴があるのは、VAIO U1だろう。両手で持つことを前提に、極度に小さいディスプレイを使い、ZOOM INキーを備えて一時的に大きな文字で表示することも可能になっている。今までPC自体を小型化することはディスプレイやキーボードのサイズから難しかったわけだが、逆に「常に両手で持って使う」ことを前提にし、「目に近づけるから文字は小さくていい、そう長時間使い続けるわけでもない」という割り切りを盛り込んでいる。

VAIO U1は、まだバッテリーが2時間少々しか持たないそうである(Impressその他の記事より)。つまり、PDAに替わる製品ではない。おおかた、CLIEとVAIOを同時に持ち歩く人々に対して、総重量を軽くするための製品なのだと推測する。日常はCLIEを使い、処理速度を要する処理や表計算操作などはVAIO U1でこなす。だから、長時間使わないことを前提に、2.5〜4時間程度バッテリーが持てばよい、将来はもっと良くなる、という思想に見える。

この善し悪しはともかくとして、WindowsCEのハンドヘルド・コンピュータ版(NECのMobileGear、HPのJordano 720/710などキーボード付きのノンPC、主としてメール端末扱い)は期待したほど普及しなかった。ノートPCが軽くなったためだろう。かといって、普段持ち歩くにはまだ重く、ノートPCもこのままでは頭打ちだ。ではどうするか、という状況に対する、SONYなりの考えだろう。

現在のように、その気になればかなり小さな(それこそウェアラブルな)PCを作ることが出来る時代だからこそ、真剣に考えなければいけない、サイズとサービスの関係が浮上してくる。

これは次の項目で扱おう。


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